「何もない」のに退屈させない北野映画
■作品名『あの夏、いちばん静かな海。』
■監督
北野武
■出演
真木蔵人、大島弘子、河原さぶ、寺島進
■DVD販売元
バンダイビジュアル
北野武監督、3作目の作品です。
サーフィンにのめりこんでゆく聾唖の青年を、俳優でもありプロサーファーでもある真木蔵人さんが演じています。
ゴミ収集の仕事をしている聴覚障がい者の茂は、ある日、粗大ゴミに出されたサーフボードを拾う。先の欠けたボードを補修し、同じく聴覚障がい者の弘子を伴ってサーフィンをはじめた茂。サーフィンに夢中になるあまり、次第に仕事も弘子のこともおざなりになっていくが……。
茂と弘子は耳が聞こえないため、セリフは一切ありません。
この二人が恋人同士であることは明らかなのですが、ラブシーンも一切ありません。
それどころか、視線すらもほとんど合わせていないという……。
茂に絡んでくるサーファーの少年たちも登場しますが、あまりにも静かで、あまりにも「何もない」映画。
なのに、観客をまったく退屈させない映画でもあります。
長回しのシーンの多さや、「キタノブルー」と呼ばれる独特のグレーがかった青い海と空がいかにも北野監督らしいです。
久石譲さんの音楽も映像にうまく乗っかって、頭の中で何度もリフレインします。
そしてなぜか、やたらと涙腺がゆるんできます。
ラストシーンで描かれるのは、壊れたサーフボードと一人で海を見つめる弘子。
茂がいったいどうなったのか……。
ハッピーエンドではないけれど、時々、思い出したように観たくなってしまう作品です。