行動変容とは
学校でも、現場でも、行動変容という言葉が出てくると思います。簡単にいうと「その人の常習化した日常生活の行動を変えること」で、「毎日ケーキを食べているのをやめる」とか「運動していなかった人に定期的なウォーキングを始めてもらう」などがそれに当たります。そう、生活を見直すことにより病気を予防しようという取り組みのことをさしています。ところが、長年染み付いた人の習慣というのは簡単に変えることができません。たとえそれが原因で健康に悪影響が出ていても、よほどのことがない限り改めようとしません。だって、変えないほうが楽ですもん。だから病気はさらに進行する。このように人の生活習慣が原因で起こる病気のことを生活習慣病といい、大きな社会問題になっています。
生活習慣病はやっかいな病気
生活習慣病がやっかいな病気です。少々異常があっても本人はさほど変化を感じないからです。症状がほとんど出ないから安心していると、じんわり進行してしまい、ある日突然、脳卒中や心臓病などで倒れてしまうケースも。だからこそ、軽いうちから何かしらの対策を立てることが必要であり、最も理想的で有効なのが「原因となっている生活習慣を自ら変えて」進行を食い止めることなのです。生活習慣病というのは、ケガや先天性の病気と違い、本人の努力で食い止めることができる病気なので、軽いうちに改善できれば、病院に行く必要もなく、薬も飲まないから医療費もかからない。自然と体調管理ができ、病気に強い体作りができます。誰だって健康なまま長生きしたいですからね。できることはやればいいのです。
よく医師が小難しい顔しながら「運動しましょう」とか「食事に気をつけて」といいますよね。将来、辛い人生を送りたくなければまずは自分できることを頑張りましょうよというメッセージなわけです。
保健師の役割
本人だけの努力、医師のひとことで病気がなくなるほど甘い世界なら、生活習慣病は社会問題化していません。タバコは体に害があるからやめましょうといって、即刻やめられる人がどれだけいるでしょう? 太り気味だから運動しようとしても三日坊主。生活習慣を変えるというのは、とても面倒で辛いことなのです。たまに会うだけの医師に単に「運動してね」と言われても、対象者はその場で作り笑いするだけです。もっとしっかり背中を押す人が必要です。それは誰なのかというと、「保健師でしょ!」(笑)
極端な話、医師は病気を治すことが専門であり、個々の予防にまで手が回りません。それどころか、重症患者ばかり診ているので、ちょっとくらい血液データの悪い人には「このくらいなら大丈夫」と安心させてしまったり、真剣に予防の大切さを説く時間も取れないため、かえって病気を悪化させてしまうこともよくある話です。
保健師の行動変容の促し方
できる保健師は行動変容を促すにあたり、前述の医師のごとく単に「運動しましょう」なんて安易なアプローチはしません。お説教的な言い方などもってのほか。まずは相手が納得して生活改善に取り組もうと思うだけの情報を提供していきます。たとえば、・今の検査結果から分かっている体の状態
・血糖値や尿酸値が高いのがなぜいけないのかという医学的な根拠と解説
・このまま放置するとどうなってしまうかの解説
・相手の生活習慣の何が原因なのか確かめること
・どこまでならできそうかなど、相手のできる範囲の把握
・取っ掛かりのハードルを低くして、継続させるためのサポート
・改善のきざしが見えたときの次の目標の立て方
・あくまで、相手が自分からやろうと思わせること
保健指導のひとこま
対象者の笑顔が保健師の活力
まず舞台に立たせる→継続させる→楽しみを見出してもらう→結果を出す。一連の流れのなかで脱落者を出さないよう、あの手この手を使い、寄り添い、自立してもらう。ここが保健師の腕の見せ所です。そして、
「あのとき、一生懸命後押ししてくれて良かったよ」
と笑顔で言ってもらえることが喜びと明日への活力になります。
ただし、結果はいつも目に見えるとは限りません。そもそも生活習慣病でも大して症状を感じていない人のほうが多いのだから、行動変容を起こしたところで劇的に体調がよくなったり、すごいダイエットになるわけでもありません。それでも、やっていなかったら、大変なことになっていたケースは多々あるわけで、保健師たちは、その目に見えづらい将来を守ってくれる役割を担っている、ある意味、地味で目立たない存在。しかし、とても大切な仕事。そのように私は思っています。