保健師/保健師とは

保健師を知らない人が多いのはなぜなのか?

看護師に比べ、保健師の認知度はかなり低いといいます。これから看護を学ぼうと思っている人でも、その仕事内容や意義をしっかり理解している人は少ないようです。その理由はどこにあるのか? 最新データを元に、保健師のおかれている立場や職場の意識、今後もっと世の中に知ってもらうために何が必要なのかを考察してみました。

西内 義雄

執筆者:西内 義雄

保健師ガイド

保健師を知らない人が多いのはなぜ?

私が周囲の人に保健師の話をすると、高い確率で聞かれる質問があります。
「えーっと、保健師ってつまり、何をしている人?」

そのたびに基本的な自治体所属の保健師の仕事内容を伝え、地域の健康を守っていく人たちであると力説するのですが、なかなか理解してもらえません。なぜって、多くの方が実際に保健師と会ったことがないし、話をしたこともないからです。

都市部に住む働き盛りの男性だとなおさらで、かくいう私も、全国各地に何百人という保健師の知り合いがいるのに、自分の住んでいる地域の保健師とはまだ一度も会ったことがありません。私は国民健康保険に加入(被保険者)しているので、自治体保健師の対象(成人保健)になっているはずなのに……です。なぜなのでしょう? 

自治体保健師が抱える複雑な事情

とくに成人男性に自治体保健師の知名度が低い理由として、すぐに思い浮かぶ理由は3つあります。あくまで私見ですが、

1:住民の数に比べて保健師の数が足りないから。
子育て世代の多い地域では母子保健を優先する傾向が強く、成人の健診関連は外部委託にしています。実際、東京の某区では、人口が50万人以上いても、保健師のマンパワーの多くは母子保健に注がれ、成人の健診は本庁に担当を若干名置くだけというところもあります。成人男性にとって数少ない接点である健診も、受診勧奨は受診票の送付のみ。受診しない人には、はがき一枚出すだけ。訪問はおろか、理由を聞きに来ることもないということがほとんどだと思います。

2:全体のバランスから、保健師を採用したくてもできないケースがあるから。
自治体は職員数を抑える傾向にあるため、保健師だけ増やすことが難しく、いくら保健部門から住民の健康を守るためと声があがっても
「じゃあ、産業や観光、環境整備は手抜きになってもいいの?」
「何をしているのか分からない保健師を増やす意味があるの?」
「保健師を増やしてどんな良いことがあるの。医療費が下がるの?」
などの横槍が多々入り、積極的な採用ができないことが多いようです。

3:自治体や事業所が保健師の専門性をうまく生かしていないから。
同じ自治体内でも保健師が何をしている人たちなのか理解していないケースもありますし、首長をはじめとした上層部が保健師を専門職と考えず、単なる保健を得意とする行政職との認識しか持っていないことが挙げられます。さらに、保健師が自分たちの力をアピールしていないことも少なからずあると思います。

都心より地方の保健師の知名度が高い理由とは

また、データを探っていくと、保健師の数(働くことのできる環境)には大きな地域差があることが分かります。どのくらいかというと、下の表を見てもらえると一目瞭然。都道府県別の保健師数の総数だけ見ると人口の多い、東京や神奈川、大阪、愛知などの都市部が充実しているように見えますが、人口10万人あたりに換算すると、都市部はワーストに転落し、長野や山梨が充実していることがわかります。
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            保健師の総数


単純計算すると、神奈川県ではひとりの保健師が約4500人近くを受け持つ計算になってしまいます。これではきめ細かな対応などできるはずありません。一方、数が多いとされる長野では、ひとりが受け持つ数が約1500人。データだけみると、3倍もの格差があることになります。
*データは平成24年末現在の数値。厚生労働省:平成24年度衛生行政報告例を基準に作成。
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            人口10万人あたりの保健師数



治療が先か、予防が先か

今の日本は超高齢化へと突き進んでいます。子どもの数は少なく、中年がどんどん高齢者への階段を登っています。この年代は何かしらの健康問題を抱えているものなので、できる限り大きな病気にならないよう、病院に行くより前に健康管理をしなければなりません。そうしなければ、自治体の医療費はどんどん膨れ上がる一方です。

看護師を経験してから保健師になった人たちに話を聞くと、病院で「なぜこの人たちは病気を悪化させたのだろう。どうして日ごろの健康管理を怠ったのだろう。予防できたはずなのに、なぜしなかったのだろう」との疑問を持ち、これ以上病気で苦しむ人を増やしたくないとの気持ちから転職を決意した話をよく聞きます。

超高齢化社会に備え、看護師を増やせと叫ぶ人もいますが、病気になってから面倒を診る人を増やすより、病気にならないようにする人を増やすべきではないでしょうか? これから看護職を目指す皆さんにはとくに、この問題をよく考えながら、地域看護、公衆衛生を学んでいってほしいのです。そうすれば、より保健師という仕事が理解できると思いますし、保健師の資格を取得する意欲も高まるはずです。そんな人がもっと増えれば、おのずと保健師の質はより上がり、周囲の人たちも保健師の力について理解をしてくれるはず。ひいては働く場も広がるのではないでしょうか?

そして、現役の自治体保健師の方々には、自分たちをもっとアピールしていただきたいと願っている次第です。たとえ公務員でも「専門職ならではの責めの姿勢」は時に必要と思う次第です。



※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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