どこか憎めない自分に正直で夢みる少年の主人公
■作品名火宅の人
■監督
深作欣二
■出演
緒形拳、いしだあゆみ、原田美枝子、松坂慶子
■DVD販売元
東映ビデオ
■おすすめ理由
女優・檀ふみさんのお父さんで、最後の無頼派作家と呼ばれた檀一雄氏の自伝的小説を、緒形拳さん主演で映画化した本作品。
「火宅」とは、煩悩や苦悩に満ちた世の中を炎に包まれた家になぞらえた仏教用語なのだとか。
「浮気は男の甲斐性」などと言われた時代も昔は確かにありましたが、それにしても一雄さん、あまりにも自由奔放です。
妻と子どもを放り出して、愛人の女優と同棲を始めたかと思えば、ふらりと放浪の旅に出て、そこで知り合った女性とも関係を持ってしまうという……。
文字にしてみると、とんでもない下衆野郎なのですが、どういうわけか憎めません。
年をとってもいつまでも夢みる少年で、煩悩まみれの自分にどこまでも正直。
こういう人を「元祖・だめんず」とでも言うのでしょうか。
そんな夫に愛想を尽かし、一度は家を出ていくものの、しばらくして何事もなかったかのように帰ってくる妻のヨリ子さん。
妙な宗教にはまったりしながらも、先妻の生んだ子どもや日本脳炎にかかって介護が必要になった息子を含めて五人もの子どもを育て、家を切り盛りしているヨリ子さんは、健気というよりも器の大きい肝のすわった女性。
夫の若い愛人と対峙するときも、頬ではなくておでこをペチ!
そんなヨリ子さんを、いしだあゆみさんが好演しています。
監督は、ご自身も女性好きで有名な深作欣二氏。
一雄さんと愛人が痴話喧嘩から取っ組み合いの大暴れに発展するシーンは、まるで『仁義なき戦い』。
こういう破壊的なシーンの撮り方は、やはり深作監督という気がします。
愛人役の、若かりしころの原田美枝子さんの豊満なヌードに思わず目が奪われがちになる本作品ですが、個人的には体を張った喧嘩のシーンがいちばん好きだったりします。
過激すぎるこのシーンの撮影で、原田さんは大事な顔に全治10日の怪我を負ってしまったそうですが……。
ちなみに冒頭、まだ幼い主人公を捨てて若い男と出奔する母親役で、檀ふみさんがチラッとだけ出演していますので、注意して見てみて下さい。