水路網・掘割について描いたドキュメンタリー映画
『柳川堀割物語』 (やながわほりわりものがたり)
■監督高畑勲
■DVD販売元
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
■おすすめの理由
本作は水の都として知られる福岡県柳川市を舞台に、土地面積の20%以上を占める水路網・掘割について描いたドキュメンタリー映画です。
監督、製作はスタジオジブリの高畑勲、宮崎駿氏。
とは言え製作会社はジブリではなく宮崎氏の個人事務所・二馬力、ジャンルもファンタジーではなくドキュメンタリー、と異色づくしなこともあり、お二人がタッグを組んだ作品としては恐らく最も知られていません。
第一の魅力は完成度の高さ
魅力の第一に挙げられるのはドキュメンタリー映画としての完成度の高さです。作品はプロローグと11の章から構成されますが、大別すれば4つの骨子から成ります。■一つ目は柳川の風土の美しさ、魅力の紹介
掘割を行く小船にカメラを据え付け、掘割から見える水と人々の生活、調和を描き出します。
柳川はかつて北原白秋が詩に詠い、映画では大林宣彦が『廃市』で幻想的に描いた町。その叙情性と趣は観る者の心を捉えます。
■二つ目は掘割の歴史
戦国時代に柳川城の水の防壁として開発されたところから始まり、上水道・農業用水路・洪水予防の貯水路として発展してきた歴史を紐解きます。
■三つ目は掘割の仕組み
ここではアニメーションも加え、柳川の水利システムが大変分かりやすく解説されます。一本の川から平野全体へ水を行き渡らせる驚くべき知恵と技術と叡智に深い感銘を受けます。
■四つ目は広松伝の物語
高度経済成長期、荒廃しコンクリートで固められる危機を迎えた掘割を救った一人の男「広松伝」の物語。市の下水道係長であった広松氏の勇気・行動力・情熱です。
幼少期より柳川に育った彼は掘割の合理性・優れたシステムを学び再発見し、市長に直訴します。さらに住民への啓蒙活動に尽力し市民と行政の連帯を作り上げました。
映画は掘割の再生が人々の和も再生させていく様子を映し出します。
第二の魅力は宮崎・高畑作品という点
共に自然と人々の共生をテーマに作品を作り続けるお二方ですが、本作は両氏の映画作品をより深く鑑賞するための思想的な要素が読み取れます。例えば本作を鑑賞後、ナウシカの漫画版を読むと世界観の背景に通じる共通項が見出せたりと興味深いものがあります。