銀残しの手法で映される80年初頭の東京
■作品名幸福 (81)
■監督
市川崑
■主演
水谷豊、永島敏行
■DVD/Blu-ray発売元
ポニーキャニオン
■おすすめの理由
この映画の原作は、エド・マクベインの87分署シリーズの『クレアが死んでいる』です。
黒澤明監督の『天国と地獄』(64)もそうでしたが、87分署シリーズは日本流にアレンジされて映画化されることが多いですね。
この映画も、書店での銃乱射による無差別殺人事件、被害者の中に若い刑事の恋人もいて……という発端は同じですが、後は市川崑監督独特の世界になっています。
例えば、水谷豊が演じる村上刑事は、幼い娘と息子を残して妻に家出されたという設定は独自のもの。
同時期に公開された『クレイマー、クレイマー』(79)の影響が強く感じられますが、この映画では脚本家・大藪郁子の女性ならではの視点が光ります。
また、市川崑はかつて『おとうと』(60)でも使用した“銀残し”という処理をこの映画にも施しました。
事件を捜査する刑事たち、捜査線上に登場する雑多な人々の姿が、“銀残し”で映される80年初頭の東京の風景の中で描かれます。
ロブバードが歌った主題歌『幸福 ロンリーハート』も耳に残る名曲です。