宗教と民族がキーワードの短距離ランナーの物語
『炎のランナー』(Chariots of Fire)

■監督
ヒュー・ハドソン

■主演
ベン・クロス、イアン・チャールソン

■DVD/Blu-ray発売元
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

■おすすめの理由
本作は1910、20年代の英国を舞台とする二人の陸上短距離ランナーの物語です。スポーツ映画ではありますが、作品の主題は走ることの意味を通じて、人間の尊厳や自由について描くことです。

そしてその際宗教と民族が本作を語る上のキーワードとなることが、主人公二人の人物設定に明確な形で表れます。

■ハロルド
  • ユダヤ人
  • イギリス社会で差別と偏見を受けるケンブリッジ大学学生
  • 走り勝つことは見返すため
■エリック
  • スコットランド人
  • 宣教師
  • 走り勝つことは神のため
二人共、アングロサクソンでもイギリス国教会でもないところがキモです。このイギリスの近代において重要な二つの内なる「他者」が、物語にダイナミズムを生み、イギリスへの批判精神を形作ります。

ハロルドは、当時アマチュアリズムに反するとして推奨されなかった科学的トレーニングを導入するなど勝つことに執念をみせ、英国代表として最終的にパリ五輪の100m金メダルを獲得しますが、社会は彼を認めず彼の心も晴れません。彼は祝福されず家族の元へ戻ります。

エリックは対照的に祝福された存在として描かれます。パリ五輪100m予選日が日曜日と知った彼は安息日を理由に出場を辞退します。

団長の英国皇太子は英国の名誉と威信に忠実を示す様、彼に迫りますが彼は王室の命令よりも神の教えに従うと毅然と言ってのけます。

ここは作品の山場で、彼の決断はスポーツマンシップとしてだけでなく、国家を超え神の名の元に信仰の自由、個人の誇りと尊厳を意思表示した点で気高さに満ちています。

日本人としては個人の尊厳・自由が社会や国家の抑圧を超え尊重される精神性に敬意を感じつつ、それが神の名の元に、という点に距離感を感じますし、明確な意思表示に価値が置かれる点にはある種のキツさを覚えます。

しかしこの大きな違いが逆に、自分にとって目標や夢を持って生きることの意味とは何か、改めて考えさせてくれる様に感じました。



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