アルジェント色が強く、魅力が伝わりやすい作品
『フェノミナ』
■監督ダリオ・アルジェント
■主演
ジェニファー・コネリー
■DVD販売元
ハピネット・ピクチャーズ
■おすすめの理由
80年代ヨーロッパのホラー映画界において、唯一気を吐きハリウッドにインパクトを与えた国がイタリアです。
その衝撃には二つの潮流がありました。
猟奇的で過度の残酷描写
一つはルチオ・フルチに代表される猟奇的・見世物小屋的ホラーが進化したタイプ。グロと過度の残酷描写、スプラッターがさらに強烈化した所謂「ゴア表現」を特徴とする作品群です。そこでは肉体は物であり、作品の思想は荒涼たる不条理に満ちた世界観に基づくものです。
これは日本的精神性や価値観とはかけ離れたものですが、機軸を同じくする英語圏にはすぐに受け入れられ隆盛を極めたハリウッドスプラッターの水脈となりました。
華麗で重厚な表現の恐怖描写
そしてもう一つは、本作の監督ダリオ・アルジェントに代表されるオカルトやスプラッターを美的かつスタイリッシュに描くタイプ。恐怖描写の中に様式美を取り入れ、華麗で重厚な表現を試みた作品群です。こちらは日本人受けも良く熱狂的ファンが多くいますし、スプラッター映画はダメだけどアルジェント作品は何故か観れてしまう、といった方も多いです。
例えば漫画家の楳図かずおさんがアルジェント作品の大ファンで共通項が多いのは大変有名です。
■アルジェント作品の特徴と魅力とは
- 強烈な色彩・陰影表現(張芸謀と比較すると面白い)
- 聖と俗、美と醜等の図式化できる様な二項対立表現
- テーマ・劇中音楽がプログレッシヴ・ロック
- スタイリッシュなショッキング映像(市川昆と比較すると面白い)
- ストーリーに整合性が欠けるも、圧倒的なビジュアルでカバー
本作は特にアルジェント色が強く、魅力が伝わりやすい上『サスペリア』と並ぶ代表作ということもあって、彼の作品に興味がある方が最初に観るのにお勧めです。
さてイタリアがこの様な人材を輩出する文化的背景には、ローマ時代からのカタコンベ的な死生観、フェリーニが描いた様なサーカス的享楽主義、「モンド映画」「ジャッロ」に見られる様な悪趣味、見世物小屋的いかがわしさへの寛容、等があります。
そしてこの雑食的多様性こそが、恐怖の描き様も含む西欧的・イタリア的文化力の母胎なのです。