介護が本当の意味で「ビジネス」になることの必要性
介護業界の「ビジネス化」は、より良い介護のために必要です
私自身が10数年にわたって介護を続けていることもあり、介護家族の方や介護職の方とお話しさせていただく機会も少なくありません。そのなかでいつも問題だと思ってきたのが、一つのビジネスとして成熟しきっていないことです。
例えば飲食業の場合、キレイなお店を作り、おいしい料理とお酒を手頃な価格で提供し、宣伝や販促をしっかりと行えば、多くの客が集まって繁盛しますし、働いている人たちの待遇も向上します。その他のサービス業についても、ほぼ同様のことが言えるはずです。
しかし介護業界については、まだまだその常識が通用しないのが実情。介護事業者に支払われる介護保険制度による報酬が低めに抑えられていること、介護事業者や介護職に対して「社会貢献」「ボランティア」的な部分が期待されていることもあり、良いサービスを提供したからといって、必ずしも多くの収益が上がるわけではなかったりします。
極めて残念な話ですが、能力も意欲も高い、20代半ばの介護職の方から「結婚したいので、もっと稼げる業界に転職するんです」と告白されたことすらあります。
サービスを利用する介護家族の立場はもちろん、今後の日本という国のあり方を考えた場合も、介護業界そのものが良いサービスを提供することで稼ぐことのできる「ビジネス」になる必要があると強く思います。
介護事業をマネジメントできる人材を育成する
一般社団法人日本介護福祉経営人材教育協会
日本介護福祉経営人材教育協会は「介護福祉経営士」の育成などに取り組んでいます
「一般社団法人日本介護福祉経営人材教育協会」は、経営手法・マネジメントなどを体系的・包括的に修得する機会が少ない中小の介護事業者を中心として、経営を担うことのできる人材を育成することを目的として2012年9月に結成された団体です。2013年4月には同協会が認定する「介護福祉経営士2級」の試験が全国8会場で行われ、415名が受験、193名が合格しています。
役員には介護業界や医療業界で広く活躍する方々が多く名を連ねており、業界横断型の取り組みであることがわかります。
同協会では、介護福祉経営士の取得をめざすべき人として、以下のような対象や職務を想定しています。
- 介護福祉士等の介護スタッフが、キャリアパスの一環としてマネジメントを学び、施設長等の上位職務をめざす。
- 介護施設・事業所などの経営者がよりレベルの高いマネジメント能力を身につけ、事業の拡大や多角化をはかるための経営ノウハウを養う。
- 介護スタッフとしての経験を生かし、起業、独立開業する際に、経営者に求められる資質を身につける。
- 地域の介護事業者、医療機関、行政、その他関連機関などのネットワーク化や情報の共有化をはかり、高齢者介護を含む地域包括ケアを構築するコンサルタント、コーディネーター的な役割を担う。
- 高齢者向けビジネスへ参入する企業が、介護福祉士などのスタッフを円滑にマネジメントし、良質なサービスを提供するための知識を身につける。
- 金融機関、コンサルタントなどが、介護福祉経営の知識を身につけ、介護福祉事業者等とのコミュニケーションの円滑化をはかり、ビジネスチャンスを拡大する。
ガイドである私自身も2013年8月から同協会の関西支部の理事に就任。微力ながらも介護業界が正しく成熟していくお役に立てればと考えています。
【インタビュー】
日本介護福祉経営人材教育協会がめざすもの
「介護福祉経営士」への期待は大きい、と語る江草代表理事
同協会は、これからどのように活動し、どのような成果を上げていきたいと考えているのでしょうか? 江草安彦代表理事にお話を伺いました。
横井「協会設立後の反響は?」
江草代表理事(以下、江草)「第1回の資格認定試験には、たくさんの方々が受験されました。大半は介護福祉現場に携わりながら、マネジメントに意欲のある人たちでした。同時に私たちが驚いたのは、金融機関や税理士、会計士、社会保険労務士などの人たちもたくさん受験したことです。介護福祉分野の将来性に大きな期待が寄せられている証拠であり、大変心強いパートナーであると思います」
横井「介護業界に、どのような課題意識をお持ちですか?」
江草「長年、介護福祉士の養成にかかわってきましたが、大きく3つのテーマがあると考えています。すなわち『倫理』『知識・技術』『マネジメント』です。倫理や知識・技術に関する教育は充実していますが、マネジメント、経営についてあまり教えられていません。しかし、高齢者が急増するなかで、効率的でより広がりのある介護福祉サービスが必要です。経営とは『ある知識・技術を最大限に発揮して目的を達成すること』です。高齢者や障害者の暮らしに必要なサービスとは何か追求し、その実現に向けて方法を考えたり、多職種をまとめたりする経営人材が必要なのです」
横井「今後、どのような展開を考えておられますか?」
江草「当会は、介護福祉経営を担う人材を養成し、育てることを目的に掲げています。より多くの介護福祉経営士を養成することはもちろんですが、継続的に育成する仕組みが不可欠です。そこで、介護福祉経営士になった皆さんが日常的かつ継続的に研究・研修等に取り組むことができるよう、地域支部づくりを進めてまいります。地域支部はお互いの経験や知識、技術を持ち寄り共有する場であり、介護業界に経営人材を育てていくために重要な活動拠点であると考えています。また、平成26年度より『介護福祉経営士1級』の資格認定試験をスタートし、より上級をめざす人の育成にも力を注いでまいります」
横井「介護福祉経営士をめざす人にメッセージをお願いします」
江草「介護福祉の分野において経営が必要である、と考えられるようになったのはつい最近のことです。まだ歴史が浅く、未発達な分野ですが、その分とても大きな役割が期待されています。ぜひともマネジメントに関心を持っていただき、介護福祉の現場に経営の視点を取り入れ、よりよい介護福祉サービスの実践につなげてほしいと思います」
介護業界がビジネスとして成熟していくために、同協会の果たす役割はますます大きなものとなりそうです。
同資格の取得が、人事における重要条件になる可能性も
日本介護福祉経営人材教育協会・関西支部の設立パーティーの1コマ
実は、同協会の発足より一足早い2010年に「医療経営士」という資格を認定する「日本医療経営実践協会」が発足しています。
医療経営士はその名の通り、病院やクリニックの経営を担う人材を育成することを目的とした資格で、既に全国で2,000人を超える人が取得済み。ある医療法人では、経営に関わるすべての人にこの資格の取得を義務づけているそうです。
今後は介護福祉経営士の取得状況が、介護事業所における採用や昇格などの人事における重要な条件となるかもしれませんね。
>一般社団法人 日本介護福祉経営人材教育協会の公式サイトは、こちらへ。
>介護福祉経営士のテキストについて、詳しくはこちらへ。