人生を生き抜く原動力
――ミュージカル『モンテ・クリスト伯』観劇レポート
『モンテ・クリスト伯』石丸幹二、花總まり 写真提供:東宝演劇宣伝部
この名作小説を、いったいどう3時間弱の舞台にまとめあげるのか。これまで上演された、ジャック・マーフィー(『ルドルフ』)によるスイス版と韓国版の脚本の“いいとこどりをした(演出・山田和也氏)”という今回の“第三のバージョン”はなるほど、日本人の感性にフィットする、味わい深い「人生の物語」にまとめ上げられています。
一幕冒頭、不幸の発端である物語背景がスクリーンで説明されると、舞台はさっそく、結婚間近のエドモン(石丸幹二さん)、メルセデス(花總まりさん)の抱擁から始まります。幸福の絶頂を表現するデュエットは、ふわふわとした甘美な曲調ではなく、明るくもドラマティック。のっけから歌い手の喉を全開にさせる作曲家、フランク・ワイルドホーン節が炸裂します。
『モンテ・クリスト伯』石川禅 写真提供:東宝演劇宣伝部
『モンテ・クリスト伯』石丸幹二、村井國夫 写真提供:東宝演劇宣伝部
『モンテクリスト伯』濱田めぐみ 写真提供:東宝演劇宣伝部
『モンテ・クリスト伯』岸祐二 写真提供:東宝演劇宣伝部
しかし陸に戻ったエドモンは、メルセデスや悪人たちのその後を知り、復讐を決意。大迫力のナンバー「地獄に堕ちろ!」で一幕の幕が下ります。歌詞や曲調のどぎつさにも関わらず、観客にすっきりとした気分で休憩を迎えさせるのは、個人の復讐というより「正義がなされるべきだ」と訴えるエドモンのスタンスと、石丸さん本来の清廉な声質がぴたりと合っているためでしょう。(このナンバーに乗せたダイジェスト映像がアップされています。)
『モンテ・クリスト伯』坂元健児 写真提供:東宝演劇宣伝部
『モンテ・クリスト伯』石丸幹二、石川禅 写真提供:東宝演劇宣伝部
そのエドモンの変化を決定づけるのは、ファリア神父の亡霊。神父の言う「希望を持て」という言葉は、「人間は何歳になっても生き直すことができる。その原動力は“復讐”などという負の力ではなく“希望”なのだ」という、作品のメッセージにも聞こえます。そして主人公たちが自らの力で手繰り寄せる、ポジティブな結末。原作とは異なるものの、本質的に人生を肯定するメディアであるミュージカルにおいては、あるべき形と映ります。「復讐冒険活劇」の形をとってはいますが、様々な出来事を乗り越え、長い人生を生き抜いてゆく人間の精神を力強く鼓舞する寓話として、深い余韻を残す幕切れです。
(なお、一幕の間は高台の上で芝居が展開することが多く、一階席前方の方は見上げている時間が長くなります。これからチケットを取るなら、二階席が見やすいかもしれません。)
12月8日夜の部の終演後には、石丸さん、花總さん、濱田さん出演のトークショーが開催されました。演出の山田さん司会のもと、開幕しての感触や衣裳についてなどの話題が展開。山田さん曰く、「このカンパニーは大ベテランの村井國夫さんはじめフランクな方が多く、稽古中は互いのシーンについて意見を言い合ったりと、学生演劇のようなムード。そのいい空気感が本番の舞台にも反映されていると思う」とのこと。
『モンテ・クリスト伯』彩吹真央 写真提供:東宝演劇宣伝部
*公演情報*『モンテクリスト伯』2013年12月7~29日=日生劇場、2014年1月3~5日=梅田芸術劇場、1月11~12日=愛知県芸術劇場大ホール、1月18~19日=キャナルシティ劇場
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