リチウムイオン電池市場
世界のリチウムイオン電池市場は、2011年4兆4333億円(実績)、2014年5兆2854億円(予測)、2017年には6兆4,012億円と3年ごとに約1兆円の市場拡大の予測をしています。(富士経済電池関連市場実態総調査2013 上巻)車載用に限れば、富士経済は「PHVやHVでもリチウムイオン二次電池搭載車がラインナップされつつあり、2013年以降も確実に市場拡大すると予測される」とし、この市場を狙って、電池メーカー各社の熾烈な争いが繰り広げられています。
電池を巡る提携、独自価値を求める企業
電池メーカー数社は車載用電池の開発にあたって、自動車メーカーと共同出資会社を設立しました。パナソニックはトヨタとパナソニックEVエナジー(現プライムアースEVエナジー)を、NECは日産自動車とオートモーティブエナジーサプライ(AESC)を、ホンダと三菱自動車はジーエス・ユアサコーポレーションと組み、それぞれブルーエナジー、リチウムエナジージャパンを設立しました。NEC環境・エネルギー事業推進室の吉田精孝マネージャーは、提携に至った理由を次のように話しています。「市場が立ち上がる初期段階では、技術経営と経営資源を投入してくれる相手としっかり手を組んだ方が、複数社と付き合うよりもメリットは大きい」。こうした動きは日本だけでなく、黎明期の今、海外でも積極的に行われています。
他の会社と連携せず独自の戦略をとっており、かつてリチウムイオン電池の世界シェアであった三洋電機と似た考えを持っている日立グループは、2004年、100%出資し、電池開発に特化した日立ビークルエナジーを設立しました。
生産規模の拡大でコストダウンを図り、技術面に加えて価格面でも優位に立つ戦略を描いているようです。同社は、アメリカのゼネラルモーターズ向けに「第三世代」と呼ばれる最新のリチウムイオン電池を供給していますが、資本関係は結んでいません。「特定メーカーとだけ付き合うと、そこの開発動向に(日立の電池事業が)左右されてしまう」と、元日立オートモーティブシステムズの児玉英世CTO(最高技術責任者)は語っていました。これはおそらく萌芽期の今だからこそ、各国からの様々な電池ニーズを聞き出し、すでに持ち合わせている技術を生かした事業化に向けて、触手を伸ばし普及期に備える戦略としては、理解できるものであります。
日立は電池だけでなく、モーターとインバーターも得意とし、この3つをモジュール化すれば、ガソリン車における「エンジン」に相当する部品が出来上がってしまいます。関連する部品を幅広く提供することで、「2020年にリチウムイオン電池で30%の世界シェアを取りたい」と元CTO児玉氏は語っていることから、日立が持つ情報の先には、市場を驚かすユニークな取り組みが潜んでいるかもしれません。
提携をする、しないに関わらず、電池メーカー各社の供給先は固まりつつあります。すでに大まかな勢力図は出来上がり、他社が入り込む隙間はないと思われるこの分野に、新たに参入を検討する企業が現れています。
ソニーは2009年11月、本社で開かれた経営方針説明会で、自動車用電池ビジネスへの参入を検討すると発表しました。これから需要が爆発的に伸びる市場であり、自動車メーカーと供給関係を結ぶことができれば安定した収入をもたらすと推測したのでしょう。同社はパソコンや携帯電話向けのリチウムイオン電池で強みを持っており、成長分野である自動車用に用途を広げたい考えです。
ベンチャー企業が手掛けるリチウムイオン電池市場
こうした大手企業以外にも、ベンチャー企業が自動車用リチウムイオン電池の製造・開発を手がけるケースもあります。定置型蓄電装置を開発販売するエリーパワーは大型リチウムイオン蓄電池などを行うベンチャー企業です。仕掛け人は慶應義塾大学が主催したエリーカプロジェクトで統括責任者を務めた吉田博一氏です。プロジェクトを通して表面化した問題は、リチウムイオン電池が非常に高価であり、実用化への障害になっていることでありました。そこで、電気自動車のエネルギー源である大型リチウムイオン電池を量産し、低価格化を実現するためにエルスクエアプロジェクトが発足しました。そこからさらに研究開発が重ねられ、2006年9月、エリーパワーは設立されたのです。同社には大和ハウスグループ、シャープを始めとした30社近くが出資し、資本金総額は現在300億円を超えており期待の高さが伺えます。
エリーパワーは株主から豊富な資金を得て、開発を加速させていくとともに、異業種と協業することで家庭用蓄電池や太陽光パネルなど、幅広い分野でもまた可能性を広げています。慶應義塾大学との連携も大きな武器となり、他メーカーを脅かす存在になるかもしれません。
エナックスは、ソニーでリチウムイオン電池の量産化に携わった、開発責任者の小沢和典氏が1996年に設立した2次電池メーカーです。リチウムイオン電池のコンサルティング業務から始まり、量産設備の提供据付・部材の提供、バッテリーパックの製造および自社開発電池の製造、販売を行ってきました。
同社が得意とするのは、板状の素材を何層も重ねる「積層型」と呼ばれるリチウムイオン電池です。他社製品と比べて熱を発散しやすい構造で、耐熱性に優れ車載用に適していると言われています。現在、資本提携している自動車部品大手の独コンチネンタル経由で独ダイムラーに大型リチウムイオン電池を提供しています。