片頭痛が原因で仕事の評価が下がり失職。抑うつ症状を発症する場合もあります
もし、あなたがこう考えているのなら、大切な健康寿命が縮んでいるかもしれません。片頭痛は、あなたが自立して健康的に生きられる年数を、3年も縮める重症の病気です。片頭痛は頭が痛い病気という概念を超え、精神的、経済的にも人生の質(QOL : Quality of Life)を落とします。今回は、片頭痛とQOLについてお話します。
※「偏頭痛」という表記もありますが、学会などでは「片頭痛」という表記が主流ですので、以下「片頭痛」とします。
片頭痛の有病率
片頭痛は、日本人の8.4%、840万人が悩んでいるといわれています。世界的に見ても、ドイツ27.5%、米国13%、フランス12.1%、台湾9.0%、マレーシア9.0%、中国3.0%の有病率があり、ごくありふれた病気の一つです。調査方法や診断の精度など、ライフスタイルや地域性の差はあると思いますが、片頭痛はアジアでは有病率が低く、欧米で高い傾向にあります。片頭痛で健康寿命も短くなる
人が生まれて死ぬまでの平均年数を、平均寿命といいます。そして、生きているうちに元気で自立して生きられる年数を、健康寿命といいます。なんと片頭痛は、人生の大切な時間である平均寿命を、2~3年も縮めるともいわれています。坂井文彦先生らの研究によると、片頭痛が日常生活に及ぼす影響に関する調査1)では、「頻繁に寝たきり」34%、「寝込まないが支障大」40%、「日常生活の支障は軽度あるいはなし」26%と報告されています。片頭痛に悩む74%が、頭痛により著しくQOLが低下していることが明らかになっています。
片頭痛の障害重症度は末期がんと同じ!?
WHOは、様々な病気の障害生存年数を発表しています。障害生存年数とは、病気によって障害を余儀なくされた年数を示します。その病気を原因とする障害重症度によって、Class 1~7の7段階に分かれています。パーキンソン病や聴覚欠如がclass 4、全盲がclass 6であるのに対し、重症片頭痛は、重症うつ病、四肢麻痺、ガンの末期と並ぶ最重症のClass 7です。世界保健機関(WHO)の2001年のレポートでは、「仕事や日常生活に支障を来す疾患」の第19位に位置づけられています。また、女性に限定すれば、さらに上位の第12位です。WHOの数字からは、片頭痛がいかにQOLを悪化させる重症な病気であるかが伺えます。
片頭痛で失業する
片頭痛は、健康寿命を3年も縮め、ガンの末期と同じ重症度で、人生に障害を与えます
実際、本人は、片頭痛にもかかわらず頑張って会社に来て仕事をしようと思っていても、他人からはなかなか理解が得られません。それどころか、月に何度も頭痛が原因で仕事の効率が下がることで「使えないヤツ」と烙印を押され、どんどん評価が下がっていきます。会社も休みがちになっていくと、初めは仲が良かった職場の仲間からも、「あの子ばっかり仕事を休んで」と、うとまれる存在になっていきます。居場所を失った片頭痛の方が、頭痛が原因で仕事を解雇されたり、抑うつ症状を併発することは、決して珍しいことではありません。
片頭痛は、片頭痛に悩む個人のQOLを悪化させるだけでなく、社会にも大きな影響を与える病気です。痛み止めを飲んで我慢するだけでは、問題は解決しません。たかが頭痛と考えず、適切な治療を受けましょう。
1)坂井文彦. 頭痛の疫学と医療経済学. 神経研究の進歩. 2002 ; 46 : 343-9.
2)Hu XH,et al. Burden of migraine in the United States : disability and economic costs. Arch Intern Med. 1999 ; 159 : 813-8.