ジュネーブ国際音楽コンクール優勝者、萩原麻未さんインタビュー
マルタ・アルゲリッチ、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ、フリードリヒ・グルダなど、数々の名演奏家を生み出してきたジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門にて、2010年に、8年ぶり、かつ日本人で初めてという快挙で優勝したのが、萩原麻未(はぎわら・まみ)さん。柔らかで感傷的なタッチから、怒涛の推進力で激しく畳み込むところまで自由自在。圧倒的な演奏で人気ですが、一方、普段は明るく、かつ、とてもマイペースな性格(笑)。
彼女は今何を考え、今後どこへ向かうのか?インタビューしました。
なお、世界的に注目のオーケストラ「エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカス」との共演についてのインタビューも合わせてぜひお読みください!
萩原麻未さんの今と未来とオンとオフ
ガイド大塚(以下、大):ジュネーブ国際音楽コンクールでの優勝から3年になりますが、最近はどういうことをなさっていますか?萩原麻未さん(以下、萩):室内楽がすごく好きなんです。自分以外の誰かと一緒に演奏することがすごく好きなんですよね、協奏曲もそうですが。積極的に取り組んでいけたらと思っています。
大:「積極的に」って「共演が好きです!」とアピールするのですか?
萩:いや、アピール下手なので、アピールは全くできていないのですけれど(笑)。機会があって一緒に演奏できた方に、気に入ってもらったり、信頼してもらえたりすると、とても嬉しいです。
大:なるほど(笑)。室内楽グループを作りたい、ということではないのですね?
萩:はい、そういうことではなく。
大:いろいろな人と演奏するのが楽しい、ということですかね?
萩:はい、そうですね。共演した方から学べることが大きいので、一人で弾くことよりもいろいろな方と弾くことにすごく興味をもっているのかもしれません。
大:なるほど、音楽性を学ぶ、ということですね。
萩:はい。2年前に、ヴォーチェ弦楽四重奏団というフランス人の弦楽四重奏団と初めて弾いたとき、5人の別々の人間が弾いているはずなのですけれど、一緒に息をしているようで。一緒に波に乗って音楽が進んでいるようで、誰かが音で話しかけると、それにみんなが応えるんです。それを味わえて本当に幸せだったんです。音楽をやっていて本当に良かったとその時に思えて。そういうのをいつも感じていたいです。
ピュアに真摯に読まれた曲への思いと、どんなフレーズも思ったように弾きこなす圧倒的テクニックが心を捉える萩原麻未さん。画像はエル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカスとの共演より (C)Nohely Oliveros
萩:室内楽だと、フォーレのヴァイオリン・ソナタ1番と、ピアノ五重奏の2番が、まだ弾いたことがないのですが弾いてみたいですね。
ピアノ曲では、フォーレももちろん好きですし、ラヴェルやドビュッシーも好きです。あと、現代曲も積極的に弾きたいと思っています。近々、ジェフスキとシュトックハウゼンを弾きますよ。
大:そうなのですね! 僕も現代音楽は好きですが、現代音楽を弾く意義やモチベーションはどこにありますか?
萩:現代音楽の楽譜を読むのは速い方ではなく、むしろ時間がかかる方なのですけれど、謎解きをするような感覚なんですよね。だんだん解けていくと、喉元過ぎれば……じゃないですけれど、すっきりして、そこを通り抜けるとすごく楽しい世界が待っているんです(笑)。現代曲だから、その曲を初めて聴かれる方もたくさんいると思うのですけれど、もし「この曲、いい曲だな」って思ってもらえたら、私は「やったぜ!(小さくガッツポーズ)」っていう(笑)。
大:なるほど(笑)。ピアノを弾いていて嬉しいことは何です?
萩:お客さんが「聴いてくださっている」という空気が感じられると嬉しいんですよね。曲を弾くときは、曲を自分なりに解釈して作曲家の思いに近付くように努力して「こんな感じはどうでしょうか?」とお客さんに手を差し伸べるというか、問い掛けをするような感じなのですが、その際に「お客さんが受け入れてくださった!」と感じられると嬉しいです。例えば音符がない場所とか、音の小さなppp(ピアニシシモ)の場所が、聴いてくださる方の空気を一番感じられる気がします。「今集中して聴いてくださっているかもしれない」って感じることができる時は、とても嬉しいです。また、先ほどもお話ししましたが、室内楽や協奏曲で、音楽を通してみんなが一体になることができたら、それもまた嬉しいです。
大:「問い掛けをする感じ」っていうのは面白いですね。「どうだ、これが私の音楽だ!」っていう感じではないのですね。
萩:そうではないですね(笑)。もちろん、問い掛けるときに自分で確信は持っていますよ。友達の前で弾いて「こんな感じどう? 好き?」みたいに聞いて「いいんじゃない!」「あ、本当、良かった!」というやりとりもよくしています。
大:普段、音楽以外では何をなさっているのですか?
萩:そうですね、のんびりしていることが多いですね(笑)。音楽をしないときは、音がない方がよくて、静かにしていることが多いですね。散歩したり、友達と話したり、ゆっくりしています(笑)。
*****
ということで、集中力が高く、また新しい透明さをもった感覚のピアニストという印象が強い萩原さんですが、オフとなると一変してユルいというか(笑)。「あの極度に集中力の高い演奏は一方でこのマイペースさがあるから生み出されるのかな?」と思い、また「時折聴かせるいたずらっぽい響きはこのチャーミングさから来るのかな?」とも思ったのでした。高い技術に加え、共演を繰り返すことで音楽性の幅も広げる萩原さん。今後の活躍がますます楽しみです!