新しい「真田十勇士」の物語が始まる!
「真田十勇士」の劇作は「劇団☆新感線」の座付き作家・中島かずきさん。そして演出は現・新国立劇場芸術監督の宮田慶子さん。初タッグを組むこのお2人と個性的なキャストの皆さんがどんな作品を創り上げたのかドキドキしながら赤坂ACT劇場の客席に座っていたのですが、左脳と右脳をフル回転しつつ、舞台から目が離せない贅沢な3時間5分でした。囲み会見や事前のインタビューでキャストの皆さんの口から出た「殺陣が大きな見どころの1つです。」というコメント……いやあ、本当に凄かったです! 舞台の中央には川の流れのようにも時の流れを表しているようにも見える不思議な勾配のセットが置かれていて、殺陣もそのセット上で行われるのですが、普通に立っていても膝がガクガクしそうな舞台の上で繰り広げられる「忍(しのび)の殺陣」。独自の武器を駆使して戦う真田十勇士達……中でも筧十蔵役の三津谷亮さんは某大会の元世界チャンピオンという事で、彼があるアイテムを使って戦う姿には客席から拍手が起きていました……シルク・ドゥ・ソレイユか!
そして物語の終盤に観られる真田幸村(上川隆也)と徳川家康(里見浩太朗)の一騎打ち。(これは史実にも残っているエピソードだそうです。)この場面もめちゃめちゃカッコ良い! お2人がいつ足元をすくわれてもおかしくない過酷なセットの上で対峙するシーンは物凄い迫力!
……と、見せ場満載の殺陣も勿論大きな見どころの1つですし、無条件にテンションが上がるのは間違いないのですが、ガイドが打たれたのは「歴史」という波の中で、自分たちの私利私欲の為ではなく、未来の為……そして自分たちが想いを託した者の為に戦い、散っていく真田十勇士の姿でした。
中島かずきさんが「劇団☆新感線」に書き下ろす作品って、劇中にどこか憎めなかったり、逆にめちゃめちゃムカつく悪役が出てきたりするのですが、本作にはそういう「悪役」が出て来ないんですよね。真田側からすれば「敵」に当たる家康も世の為、民の為に日本を天下泰平の国家に導こうとしている。だからこそ、幸村は家康の人間的魅力に惹かれてしまう訳で……。作品によって色々な描き方をされる淀の方(賀来千香子)もこの物語の中では、権力に執着する悪女ではなく、息子を思う母としての姿が強く描かれています。
実は今回、新感線の作品ではお馴染みの派手なSEやガンガンかかるロックがほぼ使われず、しばらく「うーん 静かだのう……。」と感じていたりもしたのですが、外連味や派手さではなく、人間の想いの深さや負けると分かっていても未来を信じ、その運命に身を投じるという人間ドラマと、個々の関係性が芯になっているこの戯曲では、ある意味ベーショックな宮田演出がしっくり来るのかな、とも思いました。
そしてガイドが個人的にヤラれてしまったのが、猿飛佐助役の柳下大さん! ここ10年、演劇界の若手俳優の台頭には目を見張るものがあるのですが、本作の柳下さんも本当に魅力的な猿飛佐助を見せてくれたと思います。佐助の誰に対しても真っ直ぐな気持ちが客席までビシビシ伝わってきました。
吉田兄弟の津軽三味線や、劇中の1番良き所で流れる中島みゆきさんが歌う主題歌「月はそこにいる」にも刺されつつ、時代の波に飲まれながらも必死に生き、必死に戦った真田十勇士達が未来に夢を託して散っていく姿にグっと来ずにはいられない本作。劇中にちりばめられた「壮大なトリック」がどんな結末を迎えるのか、是非劇場で目撃して下さい。
撮影:阿久津知宏
舞台 真田十勇士 公演情報
2013年8月30日(金)~9月16日(月) 赤坂ACTシアター■スタッフ
脚本 中島かずき 演出 宮田慶子
■主題歌 中島みゆき
■キャスト
上川隆也 柳下大 倉科カナ
葛山信吾 山口馬木也 松田賢二 渡部秀 相馬圭祐
小須田康人 粟根まこと 植本潤 小林正寛 俊藤光利 佐藤銀平 玉置玲央 三津谷亮
賀来千香子 里見浩太朗 ほか
※名古屋・大阪公演あり
「真田十勇士」 公式サイト http://www.sanadajuyushi.com/