森麻季さんの音楽を豊かにさせた、もう一つの出来事
大:歌を歌う上で変化してきたことってございますか?森:一番の大きな転機がその911で、自分のためではなくて、人のために歌いたいと思うようになりました。
もう一つは、自分の子どもができたことですね。それまでは一人で自分の人生を送っていましたが、周りの人のことを考えたり子どものことを考えるようになりました。
自分ではそんなに意識していないですし、もちろん年齢的なこともあると思うのですが、母親になった気持ちの変化が歌に影響しているのか、声が少しずつ豊かになったり、ふっくらしたり、そういう変化があるようですね。人から言われるので「じゃあ良い影響があったのかな?」ってすごく思います。前はもっときっと細くって、高い音はすごく出ていて、でも中間音に弱さがあったのが、少しずつ全体として、よりまろやかになってきたというか。
大:良いですねぇ。お子さんは子守歌からしてレベルの高いものが聴けて幸せですね~。
森:生まれる前より、胎教が一番良かったですね(笑)。妊娠中もずっとオーケストラとの共演やオペラをやっていましたから。直前までリサイタルで歌っていましたし。子どもは生まれてからの方が音楽に接していないですね。
大:育児中の方が仕事できませんもんね。
森:小さいとあまり連れて行けませんしね。音楽を好きになってくれるといいのですが。
大:お子さんは音楽をされているのですか?
森:はい、ピアノを習っていて、ちょっと弾けるだけでも立派なのに、私はつい欲張って「もうちょっとレガートに弾いたら~?」とか余計なことを言ってイラっとされていますけれど(笑)。
大:笑。森さんは今後どういう活動をしていきたいですか?
森:クラシック音楽は、本当に人の心を穏やかにしたり、調和させることができると思うのです。もちろんポップスだって他のジャンルだって素敵な音楽はたくさんあるのですけれど、人がどうしようもなく疲れてしまったときや、どうしたらいいんだろうというくらい絶望してしまったときに、心に届くのはクラシックかなと。心に寄り添えるというか、うるさくならないというか。自分もそうだったのですけれど、絶望的な大変なことがあったときにそれまで楽しく聴いていた音楽がうるさく感じて。でも、静かに流れてくるクラシック音楽だけが聴けた経験があるんです。
現代社会はストレスが多く、みんな抱えている大変なことがいろいろあるじゃないですか。自殺をする人が多かったり、いじめがあったりとかそういう話を聞くと「ああ、クラシック音楽を届けられたらもしかして気持ちが和らいだりするかな」と思ったりします。もちろんそれが解決になることではないのですが、一人でも多くの方に聴いてもらって、その方たちがちょっとでもリラックスできたとか、心が休まったとか、この歌を聴いてちょっと元気をもらえたとか、そんなきっかけになれたら嬉しいと思うのです。
大:そうですね。
森:同じことをやるのでも、元気でやれるのと、心身ともに疲れてしまってやるというのでは全然違うじゃないですか。なので、私の歌が、少しでも何か元気になれる要素になったらとても嬉しいです。コンサートを聴いてくださった方がブログなどに「森さんの歌を聴いて、元気になりました」と書いてくださることがあるのですが、それは本当に嬉しいですね。
大:今回のリサイタルでも多くの人の心に届くと思いますよ。僕も楽しみにしています。最後に、趣味というか、音楽以外でやっていることを教えてください。
森:体を動かすことが好きです。健康を維持していかないと歌えないので、もっと体を鍛えなければ、と思っています。
大;フィットネスとかですか?
森:も好きですし、スキーも好きです。芸大の学生だった時にスキー部に入っていて、よくスキーに行っていました。ほとんど人が行かないような山によく行きました。その仲間は建築とか美術専攻の人が多くて、事あるごとに「歌え」って言われまして、いろいろなところで歌わされました(笑)。ある時、その雪山で歌ったら、下からリフトのおじさんに怒られました。「やめろ~、なだれが起きるっ!」って(笑)。そして、本当になだれが起きちゃったんですよ、ちょびっと! 人が行かないところは簡単に崩れちゃうらしくて(笑)。
と、最後は大惨事にならなくてよかった、かつ、学生の頃から圧倒的歌唱だったことを物語るびっくりエピソードまで話していただきましたが(笑)、2013年9月11日のリサイタルは、クラシックを普段聴かない方の心にも強く届きそうな公演となりそうですね。聴くと本当に美しい歌に感動する森さんが心を込める公演、今からとても楽しみです。