職場という生態系
小山田浩子さん
――どこの職場にもあるしんどさをそのままリアリズムで描くのではなくて、ちょっとずらして幻想的な話にしているのがおもしろいと思ったんですけど。
小山田 私は幻想のつもりはなくて、一応リアリズムと思って書いているんですよ。でも幻想ととってくださる方がいるのはありがたいなと。
――えっ。でも工場ウとか、洗濯トカゲとか、実際にはいない生き物が出てきますよね。
小山田 私にとってはいるんですよ。図鑑に載っていなくても、この世界にはいると思って書いています。職場は閉じた空間だから、内側にいる人にとっては当たり前でも、よその人から見たら変なものやありえないものが絶対にある。一度中に入って同化したら変なところが見えない。外から来た人だけが「あれは何?」と驚く。そういうことって、レベルはちがってもいろんな会社であると思うんです。
例えば、私が以前勤めていた会社で、何か焦げ臭いと思ったら、誰かがオーブントースターで干し芋を焼いていたことがあったんですよ。私はびっくりしたんですけど、他の人は誰も異常だとは思っていない。最初は変だと思っていてもだんだん慣れてしまって、いつしか自分も普通に干し芋を焼きだす。そういう干し芋的なものは、きっとどこの職場にもあるんですよ。
――きっと工場ウや洗濯トカゲのように、働いている人もその職場の固有種になってしまうんでしょうね。
小山田 よその会社では通用しないだろうなという人が普通にいますよね。職場もひとつの生態系なんじゃないでしょうか。
――その生態系の異様さを描いていて怖いんだけど、思わず笑ってしまうところもたくさんあるんですよね。例えばコケの観察会で女児がコケを撫でながら〈ネコみたーい〉と言っているのを聞いて、古笛さんが〈ネコみたいならネコを撫でておればよいしネコには似ていない〉と思うところ。大まじめに言っているんだけど、妙におかしい。
小山田 ありがとうございます。笑えると言っていただけるのが一番うれしいです。笑わせようと思っているわけではありませんが、笑えるところがある小説が好きなので。