マエストロ井上道義さんインタビュー
ガイド大塚(以下、大):今回の公演はどのように開催が決まったのでしょう?井上道義さん(以下、井):はい、まず、同じく日比谷公園にあるホール「日比谷公会堂」と僕の出会いがあります。
2007年に日比谷公会堂でロシアの天才作曲家ショスタコーヴィチの交響曲全曲演奏会をしたのですが、その時点で開館から80年ほど経っていて、かなり古いと感じました。現存する音楽ホールでは日本で一番古いそうですよ。
大:そうなのですね。今、日比谷公会堂でクラシックの公演はまず行われないですよね。
井:えぇ。後で知ったことですが、僕が小さい頃、日本にコンサートホールはほとんどなく、オーケストラが入れるのは日比谷公会堂くらいしかなかったんです。というわけで、元々はクラシック音楽ととても縁のある場所なわけです。
響きがとても個性的で、みんなが「悪い、悪い」と言うのですけれど、そんなに悪くないんです。確かに残響は少ないんですけれど「残響が少ないホールは悪いホールだ」というのは間違いだということを発見し、面白く思っていたら、日比谷公会堂を今後どうしていくかという会の実行委員になることになったのです。
大:なるほど。
井:日比谷公会堂を今のカタチのまま残しながら、使い勝手のよいものにしようっていうところまでたどり着いていて、その一環として、野外音楽堂についても考えることになりました。野音は作り直しをしているのですが、誕生は日比谷公会堂よりも古く、今年90周年記念事業をやるというので、実行委員の皆さんと相談し、オーケストラをやることにしました。
大:そういう流れだったのですね。
井:しかし、オーケストラが野外で演奏することは難しいんですよ。なぜかというと、持っている楽器が高いんですよ(笑)。ヴァイオリンなんて場合によっては何千万円というものを持っているのですが、雨に濡れたら、楽器が悪くなってしまうわけです。太陽の下でやることもイヤなんですよね。
大:なるほど……。ベルリン・フィルのワルトビューネなんか本当に良いなぁと思いますが、野外演奏にはそういう難しさがあるのですね……。
井:ワルトビューネは天気が良いんですよ。初夏のヨーロッパは雨が降らない。フランスの野外コンサートへ夏に行くと、靴が真っ白になりますよ。乾ききっていて、砂利の上を歩くと真っ白になる。数カ月も雨が降らない。日本は突発的に雨が降ったりするので難しい。みんなやりたくてしょうがないんですけれどね。
でも、実は過去に野音でクラシックコンサートが行われていたそうです。東京交響楽団が10年間くらいやっていたみたい。昭和30年代頃の話で、僕は知りませんでしたが。
ともあれ、今回の公演の開催日は、晴れてくれるだろう、10月6日(日)を選びました(笑)。
大:晴れが多いと言われる体育の日に近い週末ですね(笑)。
井:日差しがどう来るかとかも調べて、開演時間を考えました。家族連れにも来てほしいので、子どもが飽きない長さにと考え、1時間くらいで終わる短い音楽会です。同内容のプログラムを1日に2回(14:15~、16:30~)演奏します。
大:なるほど。夕方はまた良さそうですね。
井:良いと思いますよ。ただ、最初は夜にやりたいと思ったのです。ところが、公園ということで制約もありできないことが分かりました。ですが、夜だと照明を使ってきれいに演出できるし、いつかできるようになればと思います。