遠く海外に売られた女性たち
『サンダカン八番娼館 -望郷-』
■監督熊井啓
■出演
田中絹代、栗原小巻、高橋洋子、田中健
■DVD販売元
東宝
「からゆき(唐行き)さん」とは、明治・大正時代、遠く海外に渡って娼館で働いていた女性たちのこと。
彼女たちの多くは九州の天草や島原の貧しい家の娘たちで、中には、渡航先でどんな仕事をさせられるかを知らないまま、売られてきた女性も少なくなかったそうです。
アジア女性史を研究する圭子(栗原小巻)は、「からゆきさん」についての記録を取るために長崎県の天草に趣き、そこで元からゆきさんのおサキ婆さん(田中絹代)と出会う。実の息子にさえも売春婦であった過去を恥じられ、トイレもないような汚い家で一人暮らすおサキさん。彼女は圭子に自分の壮絶な半生を語り始める……。
おサキさんを演じる田中絹代さんは、日本を代表する女優ですが、彼女自身も幼いころに父親を亡くし、困窮生活を余儀なくされていたとか。
さらには、田中家の長男が兵役を拒否して失踪してしまい、非国民として非難された一家の生活はますます厳しくなります。
芸能界に入りスターとなってからも、さまざまな苦労をしてきた絹代さんだからこそ、優しくも悲しい目をしたおサキさんをリアリティをもって演じられたのでしょう。
まるでおサキさんそのものにしか見えない絹代さんに対し、貧しい島には場違いとも言えるような都会的な空気を纏って現れるのが、女性史研究者を演じる栗原小巻さん。
アイロンの利いた服を着て、すらりとたたずむその姿に一瞬、嫌悪すら感じますが、圭子とおサキさんの二人を同じ絵の中に入れることで、対照的な人生を送るそれぞれの女性を際立たせているのかも知れません。
原作は1972年に出版されたノンフィクション小説『サンダカン八番娼館・底辺女性史序章』(山崎朋子著)。
観てしまうと何ともいえない悲しく辛くやるせない気持ちになりますが、日本人として一度は観ておかなければならない作品であるとも思います。