軽やかなおかしみに包まれた名作
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』
■監督山田洋次
■主演
渥美清、浅丘ルリ子
■DVD発売元
松竹ホームビデオ
■あらすじ
寅次郎ことフーテンの寅さんは全国の旅廻り中に東北の田舎町で、家族・会社を捨て蒸発中の男性兵頭と知り合う。心配した寅は兵頭の家族に連絡しつつしばらく一緒に旅をしないかと誘う。
そんなある日、函館で寅は、離婚しドサ回りの歌手に戻ったリリーと再会する。またリリーと旅ができる、と有頂天になる寅。しかし兵頭がどうしても旅に同行したいと言い出し、寅は渋々了解する。
こうして三人のお金はないけれど楽しい旅が始まった……。
■おすすめの理由
本作は人気喜劇映画「男はつらいよ」シリーズ第15作です。そしてシリーズ全作品中で最高傑作に推す方が多い作品として知られ、私も特に好きな1本です。
本作の魅力として挙げられるのは、まず役者の好演です。第11作で初登場のマドンナ、リリーに手応えを感じた山田監督はこのキャラクターを掘り下げ、魅力を引き出せると確信しました。
そして満を持して再登場させた本作に、リリー役、浅丘ルリ子さんだけでなく、他の主要キャラも応えました。
渥美さんはオープニングからキレキレで、寅さんとして円熟味が出てきた回でしたし、さくら役、倍賞千恵子さんは後半リリーとの絡みでシリーズ中最高と評価の高い演技を見せました。
ゲスト出演の兵頭役、船越英二さんも非常にいい味を出しました。この様にタイミング的に演者達の好演が共鳴し光った作品です。
加えて傑出した脚本と構成。前半の山場三人が北海道を旅する件は山田監督得意のロードムービー的展開です。
このシーンの明るく楽しくわくわくする感じはシリーズ中屈指の出来で観客も一緒になって笑顔で旅をしている気分になれます。
後半はタイトルにもある相合傘のシーン、メロン騒動、さくらとリリーとのやりとり、と大笑いさせたりホロリとさせたりの名シーンが交互に表れます。
作品全体は叙情感に満ちた味わいを持ちつつ、一気にみせるテンポもあります。
そして一貫する軽やかさ。優れた喜劇作品が時に垣間見せる人の精神の自由を軽妙に描き得た点で本作は名作たりえました。