すべてが美しい、芸術的な恋愛映画
■作品名『ベニスに死す』(1971)
■監督
ルキノ・ヴィスコンティ
■主演
ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン
■DVD発売元
ワーナー・ホーム・ビデオ
恋愛映画というと、男女のストーリーを思い浮かぶ人が多いと思います。
でも、これは年老いた男性が旅先で出会った女性のように美しい少年に、恋焦がれ、嫉妬し、人生を狂わせてもただひたすらに最後の死に際までその少年を見つめる…切なくも狂おしい純愛物語です。
1911年のベニスが舞台。
ドイツ有数の作曲家で指揮者でもあるグスタフ・アシェンバッハ(ダーク・ボガード)は、避暑地リドにホテルに宿泊する。
ある日そのサロンにいた、ポーランド人の家族の中の一人、美少年タジオ(ビョルン・アンドレセン)に一目で心を奪われてしまう。
募る想いとベニスの重苦しい空気に耐えられなくなったアシェンバッハは、一度はホテルを引き払うが、荷物の手違いがあり再びホテルに戻ることに。
美しいタジオへの想いを隠しきれず、アシェンバッハはホテルの滞在中、ずっとタジオの姿を追いかけ見つめ続ける。
この頃ベニスには黒く痩せ衰えた人々が街で行き倒れ、消毒液の匂いが立ちこめるように。
真性コレラが流行していることを知ったアシェンバッハは、それでもベニスを離れられず、自身も感染してしまう。
病に侵されていくのを隠すかように、白粉、口紅、白髪染めで化粧をしたアシェンバッハは、弱った身体を引きづりつつ、タジオの姿を追い求める……
なんと言っても少年タジオの美しさは、一度この映画を観たら忘れられないほど。完璧なまでの美しさです。
そして、アシェンバッハが後をつけ、ずっと熱いまなざしを送っていることに気がつき、目の前をひらひらを飛ぶ蝶ように美しい肢体を見せつける様は、無邪気な計算が感じられて、ちょっと恐ろしいほどです。
老音楽家の狂おしいまでのタジオへの想いと行動は、ともすればストーカーのようになってしまうところですが、ルキノ・ヴィスコンティ監督は見事に美しく切なく描いています。
ベニスの避暑地、建物、リゾート地の人々の衣装、音楽すべてが美しく、芸術的な映画なので、きっと切なくも報われない恋とともに酔いしれることができると思います。