妊娠の基礎知識/高齢出産

変わる不妊治療 「助成は42歳まで」の時代へ(3ページ目)

不妊治療の公的助成制度に「42歳まで」という年齢制限が登場。その意味とは? 日本の不妊治療に訪れた大きな転機を読み解きます。

河合 蘭

執筆者:河合 蘭

妊娠・出産ガイド


若い人へのインパクトは不十分か

気になることは、これが果たして若いうちの治療をどこまで推進できるかということです。今回、年齢が高い人の治療については盛んに議論されていますが、若い人の治療について支給額を増額するとか、所得制限を外すなどの優遇処置が検討されているかというとそうではありません。これでは経済力の低い若い人の診療行動をどこまで変えられるのか、やや疑問が残ります。

日本は出産年齢について過剰反応を起こす国

もうひとつの心配は、年齢制限が高齢妊娠バッシングを助長する可能性です。ネット等の心ない書き込みは、アラフォー女性の、可能性が低いことを知りつつ、でも悔いが残らないように挑戦したいと思っている心を少なからず傷つけてきました。

私は厚労省でおこなわれた検討会を傍聴してきましたが、「公的助成の対象から外れることは、43歳以上の人に妊娠するなと言っているわけではないとわかってもらいたい」など、妊娠を希望する40代女性の尊厳を危ぶむ声は何人もの委員から聞かれました。

ついこの間までは40代女性が「何歳でも産む自由がある」と言っていたのに、その状況は今や一転。最近は若い人まで「卵子が老化するから早く産め」と言われているように思い、プレッシャーを感じているようです。

その状況に対し「この国には、いつも右から左へいきなり振れる傾向があって危惧している。産まない選択もあって然るべきだ。それぞれの夫婦に自由な選択が認められるような『世論の醸成』こそ今求められているものだ」という声もありました。

本当の年齢制限は、自然がかけている

海にいる夫婦

「産まない選択」も晩産化時代には大切なこと

不妊治療の公的助成制度は、厚労省研究班の報告書に「39歳まで」という最初の案が掲載されて以来波紋を呼んできました。「早く産める社会になるまで年齢制限はすべきではない」という意見もたくさんあります。

しかし、国の補助制度が制限しなくても、女性の身体には、すでに自然の制限がかかっています。国の制限は世論が大反対を唱えれば消えてなくなるでしょう。でも、本当に女性の妊娠を年齢制限しているものは国ではなく、医師でもなく、その人自身の身体なのです。もちろん男性の精子にも、妊娠させる能力の限界があります。

これからは貴重な時間が大切に使えるように全国の不妊治療施設の実力差の是正や妊娠実績の公開も必要かもしれません。そして制度の改定は実施されるとしても移行措置が何年間か設定される方向ですから、その間に国は、より若いうちに妊娠スタンバイができる夫婦を確実に増やすべきです。

また、結婚の時期により、また個人の考え方や条件により、夫婦には多様な家庭のスタイルがあってよいのだと誰もが思っている国になれるようにと、今回の新しい助成ルールは家族観の変化も提案したのだと思います。


◆今回の記事は体外受精が必要になった場合についてでした。自然妊娠を含めた高齢妊娠全体については事情が異なりますので、こちらをご覧下さい。
卵子老化をめぐる3つの勘違い
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