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ゲームのプレイ時間は本当に長い方が嬉しい?(3ページ目)

ゲームの購入基準の1つに、どれだけ長く遊べるか、という基準があります。数千円もするゲームを買ったのに、あっという間にクリアしてしまっては残念に思う人も多いでしょう。でも、本当にゲームは長く遊べれば遊べる程いいのでしょうか?

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

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密度の高いゲームという価値

ゲームを遊んでいる人の図

短くても、密度の高いゲーム体験が味わえるゲームというのも、1つの価値になるように思います。(イラスト 橋本モチチ)

さて、最初の話に戻ります。大人になったゲームユーザーの中には時間があまりない人もたくさんいます。彼らは時に長時間かかるというゲームのボリュームが逆にマイナスに感じることがあり、あまつさえお金を出してその時間を短縮しようとする人すらいます。

だとしたら、はじめからボリュームの少ないゲームがあればいいということでしょうか? きっとそれも違います。もともと40時間で表現していたものを、ただ20時間や10時間の内容で区切りをつけただけであれば、それはやっぱりボリューム不足に感じるでしょう。

ではなくて、おそらく今求められているのはゲーム体験の密度ではないでしょうか。広大なマップをただただ走らされている時間が長ければ、それはボリュームがあるようにみえてその実時間がかかるだけのスカスカな内容に感じるかもしれません。時間の無い大人にとって、そういったゲームは遊びにくいのです。同じ広大なマップだったとしても、快適に走れる乗り物の存在や、それらの的確な配置などによって、広い空間をギュッと凝縮して贅沢に味わえるかもしれません。

経験値を上げるのだって、何か同じようなことの繰り返しになってしまうのであれば、やっぱり時間ばかりかかって薄い体験に感じられるでしょう。大事なことは、1回1回の戦闘が楽しんでプレイできるかではないでしょうか。

ソニー・コンピュータエンタテインメントからPlayStation3用に発売されたタイトルに、「The Last of Us」というゲームがあります。ストーリーを楽しむシングルプレイのプレイ時間は十数時間程度で、人によっては10時間ぐらいでクリアする人もいるかもしれません。ノーティードッグという「アンチャーテッド」シリーズなどの作品を作っている海外の開発スタジオが手がけていて、これでもノーティードッグの作品の中ではプレイ時間が長い方だったりします。

ゲームの中身はいわゆるサバイバルホラーのアクションアドベンチャーで、謎の寄生菌に感染されてゾンビのようになった人々が徘徊するアメリカを、主人公のおじさんと、少女がなんとか生き抜いて旅をしていくゲームです。Z指定で18歳以上のみを対象とした作品ですが、過激な表現があるというだけではなく、色んな立場の人が、恐ろしい現実の中でたくましく生き抜き、時には矛盾を抱え、残酷な決断もしていくという、本当に大人に向けたドラマが展開されるゲームです。

30時間とか、40時間かかるようなRPGと比べれば、非常に短い作品かもしれません。しかし、決してボリュームが少ないわけではなく、そのゲーム体験は圧倒的密度で迫ってきます。本当に胸の鼓動が聞こえてきそうなぐらいドキドキする感染者との戦い。時には恐ろしい暗闇を、時には息を呑むような美しい風景を表現してくれるアートワーク。何か楽しいひとときがあると、むしろ次の瞬間にそれが崩れることを想像して不安にさせるような絶望感、そしてその絶望の中で懸命に生き延びる主人公達の姿。ゲームをクリアした時、短くてあっけなく終わってしまったというような感覚はなく、濃密な体験がズシリと心に残ります。

ゲームが子供だけのものではなく、大人のエンターテイメントに昇華しつつある今、必ずしも長時間のプレイを保証するというのが喜ばれるとは限らないかもしれません。そして、密度の高いゲーム体験が味わえる、ということが非常に重要な価値の1つになるように思います。もちろん、たっぷりと長時間遊べるゲームもあって欲しいんですが、忙しい大人向けに短い時間で満足感が得られるゲームというのも、喜ぶ人は少なくないと思うのです。

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