「性教育」で何をイメージ?
「性教育」と聞くと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか? 以前、子どもの小学校のPTA広報紙作りで、性教育がテーマに取り上げられたことがありました。紙面づくりに先立ち、親たちで、性教育という言葉で思い浮かべることを出し合いました。「命について考えること」、「自分の身を守ることを教えること」、「自分も他人も大切にするために学ぶべきこと」、そして、「年頃の男の子にポルノなどを見させないようにすること」などの意見が出ました。一昔前までは、中学生以上の男の子が隠れて本屋で買ってきたポルノ雑誌が部屋に隠されているのを発見し、母親が「そんな年頃になったのね~」と苦笑する、というケースが多かったのでしょうが、今は、自宅にパソコンがある家や、小学生でも携帯電話を持参する子が増えています。出会い系サイトや有害サイトなどへ接続できないように設定をしても「パソコンの操作などが得意な子たちは、そんな設定さえ解除する方法を見つけることもでき、性に関するキーワードをたよりに様々なページにアクセスすることが可能」という、小学生のお父さんの声もありました。完全にシャットアウトすることは、一昔以上に不可能な環境です。だからこそ、どういう情報をどのように伝えていくかが、大人としては悩みどころになってきます。
「性」は「生」に直結
小学校の授業では、低学年の頃から、少しずつ性教育が始まっています。低~中学年にかけては、生活上の指導や道徳などで、身体や生活環境を清潔にすること、自分と他人の心と身体を大切にすることが取り上げられます。4年生の保健や5年生の理科の授業では、男女の身体の仕組みの詳しい違いや、月経や射精について、受精の仕組み、子宮内での胎児の成長の様子などを学びます。男女の身体の仕組みの違いを知ることは、「性差」の存在を知ること。それは、決して「性差別」ではなく、違った機能を持つ人間同士が、社会の中でどのようにして尊重し合い、助け合って関係を築き、心身共に健康に生きていくかということの第一歩となります。
男女の身体の違いを科学的にとらえる
『こころ からだ いのちのえほん5 女の子』『こころ からだ いのちのえほん6 男の子』
この2冊の絵本は、成長に伴う女の子と男の子の身体の変化について、同じ構成で書かれています。2冊を同時に見比べながらページをめくっていくと、男女の身体やその働きの違いがよく分かるようになっています。子どもの身体から大人の身体への変化の始まりを迎えた時は、誰しもが不安や戸惑いを感じるでしょう。そのような時期を迎えた子どもたちに、どのような仕組みで、どういう意味があって身体の変化が起きているかということを、科学的に伝え、変化の受け止め方や生活上の注意点についてもアドバイスしています。
作者の北沢杏子さんは、1960年代から性教育を中心とした啓発活動を展開し続けてきた教育評論家。「お母さん・お父さん・先生がたへ」として巻末に載せたメッセージからは、「性のことを科学的に正確に伝えたい」、「性差別をはじめとするあらゆる差別をなくしたい」というひたむきな思いが伝わってきます。
子どもが小さいころは、「この子と性の話をするなんていつのことやら」と思うかもしれません。しかし、小学生に上がると、成長が一気に加速するように感じられます。思ったよりも早く、その時期はやってきます。また、高学年になって男女を急激に意識し出したり、大人への反抗的な態度が強くなってきたりする時期に入る前の方が、身体のことを気軽に親子の話題にしやすいかもしれません。
性をテーマにした話を、我が子とオープンにできる方も、そうでない方もいます。お子さんのタイプも色々でしょう。決して無理をすべきことではありません。しかし、子どもに心身の悩みができたり、困ったことが起きたりした時に、一番寄り添えるのは、一緒に暮らしている大人。こういった絵本も、話しにくいテーマを親子で共有するための一助になればいいですね。