階級闘争的史観で綴られる壮大なアクション映画
『忍者武芸帳』
■監督大島渚
■声の出演
小沢昭一、山本圭、佐藤慶
■DVD発売元
ポニーキャニオン
■あらすじ
室町時代後期、武将達が群雄割拠する戦国の世。奥州出羽の最上伏影城城主・結城光春は家老坂上主膳の謀略により非業の死を遂げる。
光春の息子・重太郎は父の仇を討つ機会を狙うも逆に、主膳の妹で忍者の螢火に破れ命を落としかける。重太郎を救ったのは黒装束の忍者・影丸だった。
影丸は、重税に加え折からの大飢饉に苦しむ百姓達、重太郎を擁する野武士達を巧みに操り、最上伏影城を陥落させる。
主膳を追い詰めた重太郎の前にまたも螢火が立ち塞がり後一歩のところで主膳に逃げられてしまう。同時に影丸も姿を消し、重太郎は剣修行の旅に出る。
一方主膳は自分と瓜二つな明智光秀に影武者として召し抱えられていた。蛍火は光秀率いる忍者集団、明智十人衆と行動を共にする。光秀の主、織田信長は各地の一揆を指揮する影丸を暗殺すべく、影丸の師、無風道人にその命を告げるのだった……。
■おすすめの理由
本作は名作マンガ『忍者武芸帳 影丸伝』を鬼才、大島渚監督が風変わりな手法で映画化した作品です。
その手法とは原作マンガの一コマ一コマの絵からセリフを除いた絵をカメラで順に映し、それに音楽を入れ俳優陣がセリフを当て、パン・ズーム・ワイプ等の様々な映画的映像処理を施したもの、簡単に言えば動きのある紙芝居といったところです。
当然のことながら珍しい形の映像なので観始めてしばらくは違和感がありますが、慣れてくると元々のストーリーの面白さ、スピード感に加え、小沢昭一さんの名ナレーション、巧みな編集と構成が効いてきて次第に引き込まれていきます。
大島監督は敢えて自信を持ってこの手法を選んだらしいのですが、その大胆な発想には驚かされますし、映画の映像表現の可能性について考えさせられます。
本作のもう一つの魅力は、学生運動等に代表される60年代的「政治の季節」の熱さが刻印されている点です。原作には世界観の背後にマルクス主義や唯物史観があるとされ、当時の学生や知識人に支持されたことが後に日本のマンガ評論を生んだ要因の一つになったと言われます。
この様な背景を知らない若い世代が今読んでも、登場人物達の生き様や皆が幸せに生きられる世を願う気持ちは胸熱くさせる力があります。