ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

『4 Stars』2013&2017 開幕レポ&インタビュー(2ページ目)

ミュージカル・ファンなら何をおいても駆けつけたい、夢の顔合わせが実現したミュージカル・コンサート、『4 Stars』。2013年の第一弾、2017年の第二弾ともに、きら星のような名曲揃いの舞台の様子を、それぞれの演出家へのスペシャル・インタビューと併せ、たっぷりとレポートします!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド



【4 Stars 2013開幕レポート】

『4 Stars』undefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場

89年、『ミス・サイゴン』の主人公役で彗星のように現れ、ディズニー・アニメのヒロインとしても世界的な人気を獲得してきたレア・サロンガ。『オペラ座の怪人』25周年記念コンサートでタイトルロールを任されるほど、アンドリュー・ロイド=ウェバーの信頼厚いラミン・カリムルー。『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』で、日本のミュージカル界に新たなスターの登場を印象付けた城田優。そして『オペラ座の怪人』クリスティーヌや『リトル・マーメイド』アリエル役で、当代きってのソプラノ・ヴォイスを披露してきたシエラ・ボーゲス……。

『4 Stars』レア・サロンガundefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』レア・サロンガ 写真提供:梅田芸術劇場

ミュージカル史の「伝説」から「ホープ」まで、いずれ劣らぬスター4人が一堂に介する企画が実現しました。このコンサート、実は日本限定。海外メディアでも羨望のまなざしで報道されているという「夢の顔合わせ」コンサートの開幕です!

そのオープニングは、期待で胸のみならず喉元あたりまでいっぱいになった観客にとっては、少々意外なものでした。これだけのスターが揃っているなら、イントロを長くするなどしてお客をじらすことも十分あり得るのに、バンドが奏でる「All That Jazz」(『シカゴ』)に併せ、さくさくと下手からレア・サロンガ、上手からシエラ・ボーゲス、そして中央からラミン・カリムルーと城田優が登場。一節ずつ歌い、和やかに合唱するという、シンプルこの上ない幕開けです。
『4 Stars』undefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場

飾らず、のびやかに歌う彼らの姿に滲み出る、スターのオーラ。日本(とスペイン)代表の城田さんも、大柄であることも手伝ってか、頼もしく、そして自然に3人に溶け込んでいます。このほどよい簡潔さとリラックス感は、ショーの最後まで持続し、観客を心地よく包み込みます。

気取らない、大人のムードは音楽面にも反映。『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』などで知られる作曲家ジェイソン・ロバート・ブラウンによるアレンジは、大方がジャズ風です。『回転木馬』の「You’ll never walk alone」など、ゆったりとしたジャズに染め直されてもなお感動的に聞こえるのは、編曲、歌い手双方がツボを心得ているからこそでしょう。
『4 Stars』undefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場

1幕ではロジャース&ハマースタイン、ソンドハイム、ロイド=ウェバーらの名曲が登場。スターたちが持ち歌や声域に合う曲を歌ってゆきますが、要所要所にさきほどの「You’ll never walk alone」や「No one is alone」(『イントゥ・ザ・ウッズ』)等、連帯をテーマとしたコーラス曲が差し挟まれ、国際色豊かなスターたち(レアはフィリピン人、ラミンはカナダ育ちのイラン人、城田さんはスペインと日本のハーフ、シエラはアメリカ人)が集う意味を感じさせます。4人のアンサンブルもすこぶる良く、誰か一人が突出することなく、色とりどりの千代紙をきれいに重ねたようなハーモニーが見事です。(レアいわく、彼ら4人はリハーサルを通して大の仲良しになり、何度一緒に晩御飯を食べたか分からないとか。)

『4 Stars』ラミン・カリムルーundefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』ラミン・カリムルー 写真提供:梅田芸術劇場

2幕も『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などの名曲が目白押しですが、その中できらりと光るのが、ピアノを囲んで4人が思い思いの選曲を歌うお楽しみコーナー。城田さんは「おばあちゃんの名前でもあるので思い入れがある」という「Isabel」を、レアは「病気で声を失ってしまった親戚を思って歌っている」というフィリピン語の歌「イカウ(あなた)」を、声楽出身のシエラは修業時代から大好きだと言うオペラ『ラ・ボエーム』の「私の名はミミ」を、そしてラミンはギターを片手にブルーグラス風のオリジナル曲「Reminder」を英語と日本語で……と、あまりにばらばらな選曲(!)がお茶目。ここが最も、彼らの「素」を垣間見せてくれるシーンと言えるでしょう。

 

『4 Stars』シエラ・ボーゲスundefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』シエラ・ボーゲス 写真提供:梅田芸術劇場

もちろん、各自の持ち歌における「ゆるぎない歌唱」も必聴です。直立不動の小柄な体から聴衆の心へと強靭に、まっすぐに届けられるレアの「命をあげよう」(『ミス・サイゴン』)。歌いだし「Sing once again with me a strange duet」の圧倒的迫力に「待ってました!」と(心の中で)声を掛けたくなるラミンの「Phantom of the Opera」。「最後のダンス」(『エリザベート』)一曲のうちにどんどん声の表情を変え、聴く者を取り込む城田さんの表現力。簡明なアニメソングをここまで、というほど彫の深い曲に聞かせるシエラの「Part of your World」(『リトル・マーメイド』)……。

 

『4 Stars』城田優undefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』城田優 写真提供:梅田芸術劇場

いっぽうでは、持ち歌以外で思いがけない発見があるのも、こうしたコンサートの楽しさです。演出家ダニエル・カトナーが「優のために」とプログラムに入れたモーリー・イェストン版ファントムの「You are music」で、城田さんはクラシカルな発声に挑戦。ラミンとはまた別の魅力溢れるファントム誕生を予感させましたし、そのラミンは「Moving too fast」(『ラスト・ファイブ・イヤーズ』)でファンキーな歌唱を披露。これまで時代物の作品が多かった彼ですが、『RENT』系もはまるかも?などと想像させてくれました。

最後はジャズ調アレンジの「Somewhere」(『ウェストサイドストーリー』)で4人が虹のように軽やかにメロディを重ね、締めくくり。カーテンコールにもこの幸せなひとときにぴったりな歌詞の曲が選ばれていて、ショーは気持ちよく幕を下ろします。2時間というコンパクトな時間に、4人の様々な歌声が凝縮され、観客はお腹がいっぱい。4人の魅力はもちろん、ミュージカルの楽しさを再発見できる、近年になく完成度の高いコンサートとなっています。

『4 Stars』演出家ダニエル・カトナー スペシャル・インタビュー(2013年6月16日、青山劇場にて)

ダニエル・カトナー氏。( C ) Marino Matsushima

ダニエル・カトナー氏。( C ) Marino Matsushima

――今回の公演はどういう経緯で生まれたのですか?
私は11年に現代劇「みんな我が子」で梅田芸術劇場に招かれ、日本で初演出をしたのですが、その折、また一緒にやろうというお話をいただきました。何がいいかと話すうち、僕はNYでレア・サロンガのショウを演出したことがあるので、彼女を中心に何かできないかと思いついたのです。そこでシエラやラミンや日本のスター、城田さんに加わってもらい、4人のショーをという展開になりました。アイディア段階ではまず夢のキャスティングをしてみるものですが、今回はそれがそのまま実現したので、幸運でした。
ゲネプロ後、囲み会見に応じる4 starsの面々。( C ) Marino Matsushima

ゲネプロ後、囲み会見に応じる4 starsの面々。( C ) Marino Matsushima

――プログラムはどう組み立てていったのでしょうか。
彼らの持ち歌をリストにしてみたら、あとちょっと加えれば「ミュージカル史」が出来上がると気づき、時代順に並べてみることにしたんです。ロジャース&ハマースタインに始まって、ソンドハイム、ロイド・ウェバーやシェーンベルク、ディズニー、そして最後に今回音楽監督も務めているジェイソン・ロバート・ブラウンの作品……。これらを並べながらスムーズな流れにまとめてゆくのは、ちょっとしたエクササイズでした。

――今回のコンサートでは、一人が歌い終わっても舞台からはけず、残って次の歌を聴くことが多いのが特徴的ですね。
今回が初めての試みです。ふつう、コンサートでは一人一人現れて歌っては消えるし、ミュージカルなら物語の中に居続ける。今回はミュージカル・レビューなので、両者の中間的なものができないかと思ったのです。ソンドハイムやジェイソンのパートではとりわけ、アンサンブル的な演出を心掛けました。観客が、彼らはソリストではなく一つのチームなのだと感じてくれることが、僕にとっては重要でした。

――『オペラ座の怪人』のセクションでは、ロイド=ウェバーの一連の作品の前にモーリー・イェストン版の「You are music」が歌われますね。この意図は?
『4 Stars』undefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場

ラミンは世界最高のファントムの一人ですが、(別バージョンを入れることで)城田さんにとってもファントムを歌ういい機会になるのではないか、と思ったのです。ロイド=ウェバー版と同じくらい僕はイェストン版も好きだし、この曲は日本でも知られているので、ちょっと面白くなるのではと思って、「怪人比べ」をしてみたんですよ。

――「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」のステージングは、あなたの師匠、ハル・プリンスの演出に忠実でしたが、プリンスへのリスペクトということでしょうか?
『4 Stars』undefined写真提供:梅田芸術劇場

『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場

彼の演出を拝借しようと思った……わけじゃないですよ(笑)。僕としては、前曲で歌ったシエラはすぐ舞台からはけるのだと思っていましたが、シエラはそのまま残って(クリスティーンとしての)芝居を続けたがったんです。観客にとっては芝居本編を観ているような感覚を味わえる、ボーナスになったのでは?僕にとっても思わぬ「ごちそう」でした。

――最も演出を楽しんだシーンは?
『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』はもちろん大きな聴きどころですが、これらの作品はレアたちの体の中にすでに入っているので、演出はほとんど出来上がっているようなものです。それ以外の、ソンドハイムやジェイソンの作品コーナーが僕としては楽しかったですね。視覚面のプラン会議で、僕はプリンスの『カンパニー』のオリジナルプロダクション(1972年)のセットを引用し、アイディアを出したんです。出来上がったセットはまさにこれを思わせる、段のたくさんあるものでとても嬉しかったです。

――音楽監督にはどんな音楽的リクエストをしたのでしょうか?
彼はジャジーでモダンなスタイルを特色としています。オリジナルに忠実でありながら、一味違う魅力を引き出してくれることを期待して一任しました。彼は作曲家としてとても才能があるだけでなく、彼以前の作曲家をよく勉強しているし影響も受けていて、アレンジにオマージュをちりばめている。彼との作業はとても楽しいものでした。

――あなたはハロルド・プリンスの一番弟子として知られていますが、彼とはどうやって出会ったのですか?
全くの縁としか言いようがありません。故郷フィラデルフィアで演劇修行を始めた僕は、NYに移ってある新作ミュージカルに携わりました。そこで指揮をしていたのがチャーリー・プリンス。プリンスというのはよくある名前なので僕は何とも思っていなかったのですが、彼と仲良くなった頃、突然「君は僕の父に会うべきだ」と言われたんです。「君のお父さんって誰?」と尋ねたら、彼は怪訝な顔をしながら(笑)「ハルだよ」と。ハルと5分話した後、彼のオフィスで働くことになりました。2年ほど下働きをした後、演出助手となり、それから10年。彼は僕を励まし、多くを学ばせてくれるホームベース。素晴らしい、夢のような関係が続いています。

――彼から学んだ最も大きなことは?
仕事への姿勢です。彼ほど事前にしっかり準備をする演出家を、僕は他に知りません。彼は毎日9時にオフィスに来る。絶対に休まないし体調も崩さない、勤勉な人です。こういう人は演劇業界には珍しいし、多くの人は「演劇は芸術なのだから、楽しむべき」というスタンスかもしれないけど、僕は「仕事」である以上は真面目に取り組むべきだ、というハルの考えにとても共感します。

――彼から「成功」のコツを学びましたか?
彼がここにいたら、おそらく両手をあげて降参のポーズをするでしょう。それは誰にも分からない(笑)。演出家が出来ることは、ストーリーを最大限、説得力あるものにすることですが、それをやっているハルでさえ、『オペラ座の怪人』の後10年間ほど、新作がことごとく失敗しました。ただ、彼のユニークなのは演出歴の長さ。60年ですよ! 『ウェストサイドストーリー』『くたばれヤンキース』の成功に始まり、『屋根の上のヴァイオリン弾き』『エビータ』『オペラ座の怪人』といった黄金期があり……。成功も失敗もあり、そのいくつかは身近にいた僕も分け合いました。そんな経験があるので、昨夜このショーは大喝采のなか初日を迎えましたが、有頂天になりすぎないよう、自制心が働きます(笑)。

――次のプロジェクトは?
新作ミュージカルが2本あります。一本は、とあるドキュメンタリーをもとにしたミュージカル。もう一本は、まだお話できませんが、日本の皆さんにとってもわくわくするようなプロジェクトですよ。

――あなたが創りたいのはどんな舞台ですか?
今回のような商業的なショーから、深い芸術的な作品までいろいろなものに興味がありますが、どちらにしても心を深く揺り動かされるような舞台を創りたい。テーマとしては、特に父と子の関係、あるいは夫婦の関係に関心があります。僕自身、結婚9年目で3歳と1歳の男の子がいます。

――あなたにとって演出の喜びとは?
今回のように、劇場の一番後ろに座って客席を見渡すことかな。素晴らしい役者たちを目の前にして、目を輝かせている人々。そんな姿を見ていると、僕もこの上ない幸せを感じます。

*公演情報*
『4 Stars One World of Broadway Musicals』
2013年6月23日まで=青山劇場
6月27~30日=梅田芸術劇場メインホール
http://www.umegei.com/schedule/258/index.html
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