【4 Stars 2013開幕レポート】
『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場
『4 Stars』レア・サロンガ 写真提供:梅田芸術劇場
そのオープニングは、期待で胸のみならず喉元あたりまでいっぱいになった観客にとっては、少々意外なものでした。これだけのスターが揃っているなら、イントロを長くするなどしてお客をじらすことも十分あり得るのに、バンドが奏でる「All That Jazz」(『シカゴ』)に併せ、さくさくと下手からレア・サロンガ、上手からシエラ・ボーゲス、そして中央からラミン・カリムルーと城田優が登場。一節ずつ歌い、和やかに合唱するという、シンプルこの上ない幕開けです。
『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場
気取らない、大人のムードは音楽面にも反映。『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』などで知られる作曲家ジェイソン・ロバート・ブラウンによるアレンジは、大方がジャズ風です。『回転木馬』の「You’ll never walk alone」など、ゆったりとしたジャズに染め直されてもなお感動的に聞こえるのは、編曲、歌い手双方がツボを心得ているからこそでしょう。
『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場
『4 Stars』ラミン・カリムルー 写真提供:梅田芸術劇場
『4 Stars』シエラ・ボーゲス 写真提供:梅田芸術劇場
『4 Stars』城田優 写真提供:梅田芸術劇場
最後はジャズ調アレンジの「Somewhere」(『ウェストサイドストーリー』)で4人が虹のように軽やかにメロディを重ね、締めくくり。カーテンコールにもこの幸せなひとときにぴったりな歌詞の曲が選ばれていて、ショーは気持ちよく幕を下ろします。2時間というコンパクトな時間に、4人の様々な歌声が凝縮され、観客はお腹がいっぱい。4人の魅力はもちろん、ミュージカルの楽しさを再発見できる、近年になく完成度の高いコンサートとなっています。
『4 Stars』演出家ダニエル・カトナー スペシャル・インタビュー(2013年6月16日、青山劇場にて)
ダニエル・カトナー氏。( C ) Marino Matsushima
私は11年に現代劇「みんな我が子」で梅田芸術劇場に招かれ、日本で初演出をしたのですが、その折、また一緒にやろうというお話をいただきました。何がいいかと話すうち、僕はNYでレア・サロンガのショウを演出したことがあるので、彼女を中心に何かできないかと思いついたのです。そこでシエラやラミンや日本のスター、城田さんに加わってもらい、4人のショーをという展開になりました。アイディア段階ではまず夢のキャスティングをしてみるものですが、今回はそれがそのまま実現したので、幸運でした。
ゲネプロ後、囲み会見に応じる4 starsの面々。( C ) Marino Matsushima
彼らの持ち歌をリストにしてみたら、あとちょっと加えれば「ミュージカル史」が出来上がると気づき、時代順に並べてみることにしたんです。ロジャース&ハマースタインに始まって、ソンドハイム、ロイド・ウェバーやシェーンベルク、ディズニー、そして最後に今回音楽監督も務めているジェイソン・ロバート・ブラウンの作品……。これらを並べながらスムーズな流れにまとめてゆくのは、ちょっとしたエクササイズでした。
――今回のコンサートでは、一人が歌い終わっても舞台からはけず、残って次の歌を聴くことが多いのが特徴的ですね。
今回が初めての試みです。ふつう、コンサートでは一人一人現れて歌っては消えるし、ミュージカルなら物語の中に居続ける。今回はミュージカル・レビューなので、両者の中間的なものができないかと思ったのです。ソンドハイムやジェイソンのパートではとりわけ、アンサンブル的な演出を心掛けました。観客が、彼らはソリストではなく一つのチームなのだと感じてくれることが、僕にとっては重要でした。
――『オペラ座の怪人』のセクションでは、ロイド=ウェバーの一連の作品の前にモーリー・イェストン版の「You are music」が歌われますね。この意図は?
『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場
――「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」のステージングは、あなたの師匠、ハル・プリンスの演出に忠実でしたが、プリンスへのリスペクトということでしょうか?
『4 Stars』 写真提供:梅田芸術劇場
――最も演出を楽しんだシーンは?
『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』はもちろん大きな聴きどころですが、これらの作品はレアたちの体の中にすでに入っているので、演出はほとんど出来上がっているようなものです。それ以外の、ソンドハイムやジェイソンの作品コーナーが僕としては楽しかったですね。視覚面のプラン会議で、僕はプリンスの『カンパニー』のオリジナルプロダクション(1972年)のセットを引用し、アイディアを出したんです。出来上がったセットはまさにこれを思わせる、段のたくさんあるものでとても嬉しかったです。
――音楽監督にはどんな音楽的リクエストをしたのでしょうか?
彼はジャジーでモダンなスタイルを特色としています。オリジナルに忠実でありながら、一味違う魅力を引き出してくれることを期待して一任しました。彼は作曲家としてとても才能があるだけでなく、彼以前の作曲家をよく勉強しているし影響も受けていて、アレンジにオマージュをちりばめている。彼との作業はとても楽しいものでした。
――あなたはハロルド・プリンスの一番弟子として知られていますが、彼とはどうやって出会ったのですか?
全くの縁としか言いようがありません。故郷フィラデルフィアで演劇修行を始めた僕は、NYに移ってある新作ミュージカルに携わりました。そこで指揮をしていたのがチャーリー・プリンス。プリンスというのはよくある名前なので僕は何とも思っていなかったのですが、彼と仲良くなった頃、突然「君は僕の父に会うべきだ」と言われたんです。「君のお父さんって誰?」と尋ねたら、彼は怪訝な顔をしながら(笑)「ハルだよ」と。ハルと5分話した後、彼のオフィスで働くことになりました。2年ほど下働きをした後、演出助手となり、それから10年。彼は僕を励まし、多くを学ばせてくれるホームベース。素晴らしい、夢のような関係が続いています。
――彼から学んだ最も大きなことは?
仕事への姿勢です。彼ほど事前にしっかり準備をする演出家を、僕は他に知りません。彼は毎日9時にオフィスに来る。絶対に休まないし体調も崩さない、勤勉な人です。こういう人は演劇業界には珍しいし、多くの人は「演劇は芸術なのだから、楽しむべき」というスタンスかもしれないけど、僕は「仕事」である以上は真面目に取り組むべきだ、というハルの考えにとても共感します。
――彼から「成功」のコツを学びましたか?
彼がここにいたら、おそらく両手をあげて降参のポーズをするでしょう。それは誰にも分からない(笑)。演出家が出来ることは、ストーリーを最大限、説得力あるものにすることですが、それをやっているハルでさえ、『オペラ座の怪人』の後10年間ほど、新作がことごとく失敗しました。ただ、彼のユニークなのは演出歴の長さ。60年ですよ! 『ウェストサイドストーリー』『くたばれヤンキース』の成功に始まり、『屋根の上のヴァイオリン弾き』『エビータ』『オペラ座の怪人』といった黄金期があり……。成功も失敗もあり、そのいくつかは身近にいた僕も分け合いました。そんな経験があるので、昨夜このショーは大喝采のなか初日を迎えましたが、有頂天になりすぎないよう、自制心が働きます(笑)。
――次のプロジェクトは?
新作ミュージカルが2本あります。一本は、とあるドキュメンタリーをもとにしたミュージカル。もう一本は、まだお話できませんが、日本の皆さんにとってもわくわくするようなプロジェクトですよ。
――あなたが創りたいのはどんな舞台ですか?
今回のような商業的なショーから、深い芸術的な作品までいろいろなものに興味がありますが、どちらにしても心を深く揺り動かされるような舞台を創りたい。テーマとしては、特に父と子の関係、あるいは夫婦の関係に関心があります。僕自身、結婚9年目で3歳と1歳の男の子がいます。
――あなたにとって演出の喜びとは?
今回のように、劇場の一番後ろに座って客席を見渡すことかな。素晴らしい役者たちを目の前にして、目を輝かせている人々。そんな姿を見ていると、僕もこの上ない幸せを感じます。
*公演情報*
『4 Stars One World of Broadway Musicals』
2013年6月23日まで=青山劇場
6月27~30日=梅田芸術劇場メインホール
http://www.umegei.com/schedule/258/index.html