主演、高峰秀子の真の役者魂を感じられる映画
「私は宿命的な放浪者である」の出だしで始まる、林芙美子の「放浪記」。大正から昭和初期、貧しさに苦しみながらも困難に立ち向かうひとりの女性の生きざまが描かれているこの放浪記は、林芙美子の自叙伝的作品です。
森光子扮する芙美子がでんぐり返しをする舞台はあまりにも有名ですが、原作により近く、読者の空想が巧みに再現されているのが、成瀬巳喜男監督、高峰秀子主演の映画、「放浪記」です。
物語は家族三人、行商先として降りたった尾道から始まります。
これは林芙美子自身の幼少期が再現されたシーンとなっていて、処女作「風琴と魚の町」の情景と重なります。
林芙美子扮する高峰秀子のさりげない不美人メイクも見どころです。
目尻の下がった眉毛や口元など、スクリーンの中で美化することなく原作に忠実に描かれていて、野暮ったいしぐさや言葉使いにも、高峰秀子の真の役者魂を感じます。芙美子の母親役には田中絹代、ライバル日夏京子役には草笛光子と出演陣も豪華です。
■放浪記
監督:成瀬巳喜男
主演:高峰秀子
DVD発売元:東宝