対照的な増村監督と谷崎潤一郎の相乗効果で、独特の世界観な作品に
谷崎潤一郎の言わずと知れた小説、『卍』の映画化作品。原作も読みましたが、本作を観て、なるほどこれか、と原作に抱いていたイメージの輪郭が鮮明になりました。
一口で言えば、レズビアンが主題です。
さらに錯綜しているのは、そこに岸田今日子演じる柿内園子の夫、孝太郎(船越英二)が絡んでいくところ。老いてなお過激化していく谷崎潤一郎の面目躍如。
しかし原作を読んで抱いたイメージは、もう少し婉曲的。
過激なことを書きながら、最後の最後のところをはっきりとは言わない感じ。
増村保造と谷崎潤一郎。この取り合わせの対照が妙に面白いのです。
増村監督はフェリーニやヴィスコンティについて映画を学んだ人。撮影技法もおのずとヨーロピアン(もしくはイタリアン)です。
一方、谷崎潤一郎は陰翳礼讚。
でも実は、谷崎の英語力は相当なもので、洋書を愛読していたようで、それを知ったとき、ものすごく腑に落ちたのを憶えています。
推測ですが、谷崎が礼讚する陰翳は、西洋文明を加味した上での暗がりなので、欧米の人たちにも伝わるのです。一方、増村監督の作品はみな、日本を撮っていながらにして映像はヨーロピアンです。
本当は、この原作者と映画監督は、対立しているどころか、共犯関係にあったのです。
互いの趣味が相乗効果を起こし、他の追随を許さない、独自の作品世界に仕上がっています。
■卍
監督:増村保造
主演:若尾文子、 岸田今日子
DVD発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ