生きる重さをフィルムに焼き付けた大作
水上勉の同名推理小説で、何度も映画化・テレビドラマ化された『飢餓海峡』の映画化第1回目。現代社会の弱者を取り巻く問題を鋭く描いた作品から骨太な娯楽時代劇まで、多くの名作を撮った内田吐夢が監督しました。終戦直後の混乱期に起こった沈没船事故。
しかし、遺体の数が乗船名簿より2名多いことが発覚します。
函館署の弓坂は強盗放火事件と関連があると考え捜査を開始しますが、結局未解決のまま月日は流れていきます。
10年後、事件当時に娼婦をしていた八重は、新聞に掲載された樽見という実業家の写真を見て驚愕。なぜなら、一夜を共にしただけの彼女に、大金を渡した犬飼という男にそっくりだったからです。樽見に会いに行った翌朝、八重は死体となって海岸で発見されます。
喜劇俳優として活躍してきた伴淳三郎の、それまでとは一転したシリアスな演技が光ります。
真面目で執念深く枯れた演技は非常に重厚で、男優助演賞を受賞するなど高い評価を受けたのも納得です。
犬飼と樽見という二面性を持った男を好演した三国連太郎。
圧倒的存在感を放つ左幸子。
息苦しくなるような数々のシーン。
冨田勲の重厚すぎて圧倒される音楽。
183分という長尺にも関わらず、全く退屈させない無駄のないカットの連続。
人間の業や宿命を描いたとてつもない力を持った文芸大作です。
■飢餓海峡
監督:内田吐夢
主演:三國連太郎・伴淳三郎
DVD発売元:東映ビデオ