時代を象徴する大スターが演じるヒロインの踊り子
原作はノーベル文学賞作家、川端康成の同名小説。過去6回も映画化され、そのたびにヒロインの踊り子役を田中絹代、美空ひばり、吉永小百合、山口百恵など、時代を象徴する大スターが演じていますが、4度目の映画化で吉永小百合が主演した本作は、そのなかでも最高傑作といって良いでしょう。
吉永小百合の踊り子は、娘盛りのように見えて中身はまだまだ子どもという、原作のイメージ通り。かわいさが半端ではありません。踊り子のことが四六時中気になって仕方ない、高橋秀樹演じる主人公の学生の気持ちに、すっかり同化して見入ってしまいます。それにこの学生もまた、むこうから話しかけられないと挨拶もできない不器用さや、踊り子に夢中なのが傍目にバレバレなのに一生懸命なにげない風を装ってたりするのが、なんとも初々しくてかわいいのです。
一方で、二人が初々しくかわいければかわいいほど浮き彫りになるのが、作品の舞台である大正時代の社会構造の残酷さ。末は博士か大臣かと期待されている学生と、乞食や娼婦同然に蔑まれている旅芸人の娘とでは、どうしようもなく住む世界が違うのです。若くして死の病に冒された娼婦との出会いや、酔客にからまれる場面で示唆される、踊り子の未来を思って、やるせない気持ちになります。
■伊豆の踊り子
監督:西河克己
主演:吉永小百合、高橋秀樹