三島の鋼のような肉体は一見の価値あり
■監督増村保造
■主演
三島由紀夫、若尾文子
■DVD発売元
徳間ジャパンコミュニケーションズ
そうなんです、この作品で主役を演じているのは、かの文豪、三島由紀夫です。
ヤクザ朝比奈一家の二代目を演じています。心優しく、少しなよっとしたヤクザです。
三島由紀夫がヤクザ? と思われるかもしれませんが、彼自身が、インテリの役はいやだと断ったそうです。
増村監督と文豪が東大法学部時代の知り合いだったこともあり、「三島を俳優に映画を撮る」という企画に、増村監督が選ばれたのかもしれません、詳細はわかりませんが。
というわけでヤクザ映画に出ることになった文豪ですが、原案はじつは、もともと石原裕次郎を主演に撮る予定だった映画だそうです。
では作品となったあとの文豪の演技はどうでしょうか。正直申しますと、爆笑してしまいました。
もう亡くなったあとでこう言うのも文豪の霊に恐縮ですが、衆目にさらされる覚悟で映画に出演されたからには、観る側にも笑う自由があります。
とにかく大根役者です。三島さん本当にごめんなさい、本当のことを書きます。
たしかに、鋼のような肉体は一見の価値ありです。
でも走るシーンでは、運動神経の鈍さが一目で分かります。
エスカレーターで撃たれる場面を撮影しているとき、転げ落ちてケガされたそうですね。
そんな、無理しなくてもいいのに……。
おまけに主題歌まで歌う始末(なんと、ギター演奏は『楢山節考』を書いた深沢七郎!)。
多かれ少なかれ、観る者は苦々しさをおぼえずにはいられない作品です。とうていすぐれた演技とはいえませんが、その背後に、増村監督のものすごい皮肉が横たわっている気がします。歴史的資料としても一見の価値アリ。