行き過ぎた科学依存への警鐘がテーマの半SF物語
『アルファヴィル(Alphaville, une étrange aventure de Lemmy Caution)』
■監督
ジャン=リュック・ゴダール
■主演
エディ・コンスタンティーヌ、アンナ・カリーナ
■DVD販売元
アイ・ヴィ・シー
■あらすじ
1984年、探偵レミーは星雲都市アルファヴィルに到着した。
アルファヴィルは人工知能α60なるコンピューターに管理された都市だった。
彼の目的は先に潜入し行方不明の諜報員アンリを探し出し、α60の生みの親ブラウン教授を逮捕または抹殺することだった。
間もなく彼の前に教授の娘ナターシャが現れる。彼女は外界に興味を示す。
その後レミーはアンリを探しだすも彼はα60の洗脳的拷問により廃人同然になっていた。
アンリは死に際に、アルファヴィルは人間の思考構造を符号化しようとし、論理を尊重せず感情を抱いた人間を圧殺してゆく社会であることを告げる。
やがてレミーが読んで聞かせてくれた詩にナターシャは愛、悲しさ、優しさ等の感情を抱き始める。しかしα60はレミーの正体に気付き……。
■おすすめの理由
観始めてすぐに気付く点は、SF作品なのに特別なセットが用いられずパリの街・建物を未来都市に見立てる手法が取られていることです。
これはハリウッドの様な予算がかけられない事情もありますが、本作がヌーベルバーグ(即興演出、ロケ中心を手法的な特徴、瑞々しさ等を作品の特色とする50、60年代の仏映画)を代表する監督ゴダールによるものだからです。
ストーリーは行き過ぎた科学依存への警鐘といったテーマが流れる表層に沿って進みます。
一方後半詩(言葉)の力が豊かな感情を引き出し、人を人たらしめる源になる、といったいかにもゴダールらしい言葉への愛着が見て取れる様に、深層には言葉や愛が主眼のもう一つの物語が織り込まれます。
そう考えると作品に精巧なセットを組まず、映像的な演出だけで世界観を構築したのは低予算を逆手に取った逆転の発想で、語るべき対象の表現の仕方としてはむしろ正攻法とさえ言えます。
これはゴダール自身が本作を実験的、芸術的、冒険的、半SFと捉えていることからも明らかで、その意味において本作は正にヌーベルバーグ精神の脈打つ佳作であり、多くの映画ファンに1度は鑑賞していただきたいと感じる所以です。