地滑りや崖崩れが発生しやすい盛り土造成地
阪神・淡路大震災や東日本大震災等においては、盛り土を行った宅地造成地で地滑りや崖崩れ等の被害が発生しました。それを受けて平成25(2013)年4月に全国に先駆けて仙台市が「宅地造成履歴等情報マップ」を公表したことは「市民の防災や利益を守る」という観点から一歩進んだ取り組みとなりました。その後、大規模造成宅地の調査・公表を行う自治体は増えたものの、まだ未公表の自治体もあり、地域によって温度差があるようです。
盛り土造成地マップの必要性
過去の大地震では、造成地の盛り土の部分を中心に地滑りなどが発生し、住宅や周辺の建物などに甚大な被害が生じています。住民が造成地マップを見て、身近にそのような危険性のある造成地があることを把握しておくことで、防災意識を高め、災害の未然防止や被害の軽減につなげることが期待されています。
造成地マップの必要性が認識されたのは最近になってから
2012年では77%が未着手
それでは全国的な宅地造成地の情報公開はどうなっているのでしょうか。過去にさかのぼり東日本大震災後の2012年11月3日の朝日新聞に「盛り土造成地、進まぬ分布調査 114自治体未着手」という記事が掲載されました。それによると、2006年の宅地造成等規制法の改正を機に、国土交通省が47都道府県と20政令指定都市、41中核市、40特例市の計148自治体に対して盛り土造成地の分布状況を調べるように要請したものの、77%にあたる114自治体が未着手であったことがわかりました。その理由としては「予算がつかなかった」「予算は住宅の耐震化を優先させた」「液状化の対策に人手を取られている」などが挙げられています。
調査をしても公表しない自治体もある
上記した2012年11月時点では、調査に着手している残り34自治体のうち18自治体は調査を終えており、そのうちホームページなどで公表しているのは埼玉県、さいたま市、横浜市、川崎市、愛知県岡崎市、豊田市、春日井市、鳥取県、鳥取市の9自治体のみという状況でした。比較的早い段階から情報を公開している川崎市の「大規模盛土造成地マップ」(出典:川崎市)
調査を終えたものの公表しない自治体は「住民に過度の不安を与え、資産価値の低下を招きかねない」「対策工事を今後どのように進めるのか、国の方針が見えない」などを理由に挙げています。
大規模盛土造成地の有無の公表は60.9%(2018年5月現在)(全国集計)
2013年の調査から5年の歳月が経ち、調査・公表はどの程度進んだでしょうか。2018年5月に国土交通省が公表した「大規模盛土造成地マップの公表状況等について」(全国集計)によると、住宅向けの大規模盛り土造成地の有無等の調査に着手している市区町村は全体の80.9%、そのうち調査を完了している市区町村は67.1%、調査が完了しているうち、結果を公表している市区町村は全体の60.9%に及ぶ1,061となっています。2012年、2013年の調査結果と母数が異なるため単純に比較はできませんが、公表している自治体の割合が1ケタ台から60.9%まで増えていることがわかりました。今後もすみやかに公開する自治体が増えることを期待します。
大規模盛土造成地マップの公表率等の推移(出典:国土交通省)
盛り土造成地の公開状況(平成30(2018)年5月現在)
■「大規模盛土造成地マップ」の公表率 0%・栃木県 ・石川県 ・島根県 ・山口県 ・佐賀県 ・熊本県 ・鹿児島県 ・沖縄県
以上の8県については、県下の市町村でマップを公表しているところがないという状況です。各県により状況はさまざまで、「現在は公表していないが調査は着手済みで平成31年度にマップを公表予定としている(栃木県)」「調査に未着手の市町村と調査が完了した市町村があるが一律公表をしていない(石川県)」「データの公開について調整が必要なため現時点では回答できないとしている(島根県)」などとなっています。
■「大規模盛土造成地マップ」の公表率が100%の都道府県
以下の都道府県については全ての市町村がマップを公開しています。各リンク先からより詳細な情報を得ることができます。
・宮城県
・埼玉県
・東京都
東京都全体の大規模盛土造成地マップ(出典:東京都都市整備局)
・静岡県
・滋賀県
・京都府
・大阪府
大阪府全体の大規模盛土造成地マップ(出典:大阪府)
・奈良県
・鳥取県
・徳島県
徳島県全体の大規模盛土造成地マップ(出典:徳島県)
・香川県
香川県全体の大規模盛土造成地マップ(出典:香川県)
その他の県(公開率0%以上、100%未満)の公開状況については国土交通省のHPをご覧ください。
大規模盛土造成地とは
なお、仙台市を除き、各自治体で調査・公開されているのは「大規模盛土造成地」に該当する場所のみとなっています。「大規模盛土造成地」とは(1)谷を埋めた造成地で造成面積が3,000m2以上(2)傾斜地などで高い盛土を行った部分で、盛土をする前の地盤が20°以上かつ盛り土高さが5mをこえるものと定義されています(【図1】参照)。大規模盛土造成地マップは万全ではない
2018年9月6日に最大震度7を観測した北海道胆振東部地震(ほっかいどういぶりとうぶじしん)で陥没被害が相次いだ札幌市清田区里塚地区が、札幌市が作成した「大規模盛土造成地マップ」に掲載されていなかったことがわかり、マップによる危険性の把握が疑問視されていることが報じられました(2018年9月14日付 北海道新聞)。上段でも触れましたが、大規模盛土造成地マップには国が設けた基準以上の規模の盛土造成地が掲載されており、それ以下の規模の造成地は記載されません。
従って、もしご自宅の敷地について不安がある場合は次の方法で確認してみることをお勧めします。造成前の地形がわかる地形図と造成後の現在の地形図を入手し、重ね合わせてみてください。造成前の谷間や斜面が平坦な土地に変わっている部分については盛土を行った可能性があり、注意が必要だと言えるでしょう。
そのような注意点があるものの、大規模盛土造成地マップがあることで自治体の調査が円滑に進み、住んでいる人にとっては地滑りなどの危険性を知る手段になります。液状化や地震時の揺れやすさとともに、全国の盛土造成地マップの公開が進むことを望みます。
【関連サイト】
大規模盛土造成地マップの公表状況について(国土交通省)
宅地造成等規制法の概要(国土交通省)
宅地耐震化事業の概要(国土交通省)
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