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来るべき大災害への備え 仮設住宅の新潮流について(2ページ目)

東日本大震災の発生で改めてクローズアップされた応急仮設住宅(仮設住宅)。色々と問題点が指摘されていますが、現在新たな仮設住宅のあり方が検討されつつありますから、この記事でご紹介します。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

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ちょっと前になりますが、4月9日に大和ハウス工業のグループ会社である大和リースという会社がその提案を行いました。大和工商リースという会社は仮設住宅の業界大手で、東日本大震災における仮設住宅供給にも大変な尽力をした企業でもあります。

FRPパネルを利用した仮設住宅の提案

この提案は、建築家の坂茂氏(坂茂建築設計)と共同で行われたものです。坂氏は前ページでご紹介した宮城県女川町のコンテナ仮設住宅を提案し、設計した人物。これまでに阪神淡路大震災のほか、海外の災害発生地でも独自に仮設住宅建設を行ってきた実績があるといいます。

FRP製仮設住宅の外観

大和リースと建築家・坂茂氏が提案する仮設住宅の外観。施工がしやすく安価に製造できるため、まずは発展途上国の貧しい人たちのための住宅として普及を目指し、大規模災害が発生した場合に日本で仮設住宅として活用することを想定しているという(クリックすると拡大します)

両者が共同で提案した仮設住宅は、「FRPサンドイッチパネル」という構造を用いた建物です。FRPとは繊維強化プラスチックのことで、漁船などの船舶に使用されることが多い素材。発泡ウレタン断熱材をそのFRPでサンドしたパネルを組み立てることで、施工が容易なため短期間で建物を完成させることができ、コストも低減できるといいます。

大和リースでは、この建物を発展途上国の低所得者向け住宅として海外で生産することを計画。さらに東日本大震災のような大規模災害が発生した場合、日本に輸送するということも視野に入れているそうです。つまり、発展途上国の住宅の良質化と我が国の災害対策に対応するという、何とも壮大な計画なのです。

説明会ではモックアップ(モデル棟)も公開されましたが、予想以上の完成度の高さだと思いました。というのも、FRPで断熱材を挟んだパネルですから、丈夫であり足音などもほとんど気にならないレベルでした。暑さ寒さについては何ともいえませんでしたが、断熱材を挟み込んでいるため、ある程度の水準が確保されているようでした。

キッチンやトイレ、バス(シャワー)などの設備については一般的な仮設住宅と変わりませんが、パネル構造のため間仕切りが少ない広い居住空間を確保できるのも魅力の一つに思えましたから、この建物が量産化されると災害時の仮設住宅として大いに活躍するだろうな、と私は思いました。

さて、東日本大震災における仮設住宅供給の問題点として、素材の確保や施工にあたる人たちの確保がありました。一般的な仮設住宅はプレハブ(工場生産)とはいえ、重い鉄骨材の運搬や組み立てなどに専門的な技術や専門的な知識が求められます。

発展途上国の住宅問題解消も狙いに 

FRPサンドイッチパネル構造の場合、パネルそのものが比較的軽量であり、大きさも規格化されており、組み立ては接着剤を用いるそうです。そのため、施工に専門的な技術や知識を要しません。ですから、発展途上国においても住宅を容易に建てられるのですが、それは同時に我が国の災害時においても役に立つというわけです。

FRP製仮設住宅の内部の様子

FRPサンドイッチパネル構造で作られた仮設住宅の内部の様子。設備は通常の仮設住宅と同様だが、間仕切りが少なく広々とした空間に感じられるのも特徴のひとつだ(クリックすると拡大します)

大和リースは、今回の震災における仮設住宅の供給についてマスコミなどの批判を受け、そのあり方の限界を感じていたようです。そうした経験がこのような新たな仮設住宅の提案に結びついたということは、私は一定の評価をすべきだと思います。

ところで、仮設住宅の建設コストは厚生労働省が災害救助法に準じていて、1戸あたり約238万円かかるそうです。しかし東日本大震災では建設用地の確保など様々な困難を伴った特別な災害でしたから、コストはもっとかかっているといわれています。

今回ご紹介した大和リースと坂氏の提案やコンテナを活用する手法は、そうした仮設住宅建設のコストを低減するものとして期待されます。また仮設住宅の活躍の場が広がるという点でもユニーク。例えば仮設住宅として使われなくなったら、海外での災害や貧困にあえぐ人たちの住まいとして再利用するなど、仮設住宅の活用方法が広がるためです。

要するに今回ご紹介した仮設住宅の新たな手法は、ステレオタイプな従来の仮設住宅の供給システムから脱却を目指すものとして注目されるでしょう。このような発想を生かすことは、今後発生が予見されている大災害の発生時に備えるために大変有効的だと思われるため、今回改めて注目してみました。

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