院長の春木先生です!
春木先生は大阪では最も大きな不妊専門クリニックであるIVF大阪クリニックの副院長を歴任後、今回開院されるに至ったとのことで、そのあたりのお話も詳しく伺いました。
それでは、インタビューの内容をどうぞ!
いつも最初に質問するのですが、先生はなぜ産婦人科、それも不妊治療を専門にしようと思われたのですか? そのきっかけを教えてください。
僕は、大学を卒業後、すぐにひとつの分野にしぼることができなくて、横浜市立大学の附属病院で内科や心臓外科、小児科、産婦人科を2年かけて研修しました。産婦人科の研修医時代、産後に出血多量となり、意識のない患者様が搬送されてきました。そのときは、「母親のいないお子さんにはしたくない」と強く思い、集中治療室で必死に救命したことや、明け方までかかった緊急手術を今でも鮮明に覚えています。エレベーターホールです。
そんな経験の中で、お子さんが産まれることは本当にすごいことなのだと強く感じました。
その後も、生命が誕生する瞬間はご夫婦にとってもなにかが大きく変わる瞬間でもあると考えさせられることも数多くありました。「おめでとうございます」と報告した瞬間のご夫婦の笑顔は、言葉では表現できないほど素敵なのです。そして、そこに至るまでに多くの困難を乗り越えている方ほどすばらしい笑顔になります。
そういう出会いのひとつひとつが、僕にとって貴重な体験であり、産婦人科、特に生殖医療を志す大きな動機になったのだと思います。
今回、心斎橋にクリニックを作られた理由を教えてください。
僕は、大阪府堺市の出身で、学生時代はよく心斎橋まで遊びに出かけました。今でも、高校時代の友人と会うときは、心斎橋を含むミナミのことがほとんどですし、この地には特別な思い入れがあります。もしかすると、僕を育ててくれた街と言っていいかもしれません。入口から受付に向かって
そんな心斎橋の中でも、今回の開業先になった「心斎橋プラザビル」は、ルイヴィトンやカルチェなどのブランド店を擁した心斎橋のフラッグシップ的なビルですし、セキュリティも当然しっかりしています。たまたま、このビルに空きが出たということで、私はとても運がよかったと思っています。
そして、このビルは地下鉄と通路で直結していて、地上に出る必要がありませんし、駅から徒歩2分です。患者様に快適なアクセスを提供することこそが、我々が提供すべき最初のサービスだと思っています。待ち時間は、外出して頂いても結構ですが、それこそ、どこに行こうか迷うくらいスタイリッシュで、精錬されたショップがここ心斎橋には軒を連ねています。
受付です、曲線美がいいですね。
スタッフも、心斎橋に通勤するようになって、おしゃれに気を遣うようになったと話していますよ(笑)。
先生が今回のクリニックを作るにあたり、その思いとこだわった部分を教えてください。
ポイントはいくつかあります。まず、「患者様のため」を最大限考えること。患者様の動線にはかなり神経質になりました。まず、診療の性質上、患者様どうしで視線が合わない配慮をすること。これは、待合室や、ART待合室、採精室の設計とイスの並びに工夫をしてみました。待合室を後方から撮影しました。
次に、防音。各診察室、説明室、DVD室、カウンセリング室、採精室は防音構造になっています。皆様が安心して、なんでも相談できるようにと、設計士と何度もミーティングをし、納得のいくまで考え抜きました。
リカバリー室については、効率性の点から単にカーテンだけで仕切られているクリニックが多いようですが、プライバシーへの配慮を考えると、私としてはどうも違和感がありました。採卵、胚移植と、せっかくお二人とも頑張ったのですから、せめて術後くらいはご夫婦だけの時間を個室でゆっくりと過ごしていただきたいなと強く思いました。そこで、当院ではリカバリー室を完全個室とし、内装もくつろげるスタイルに仕上げました。
リカバリー室内です。
つぎに、クリーン度です。我々の施設では、精子調整タンク室、培養室、手術室の各部屋にそれぞれ1台ずつ大型のHEPAフィルターを設置いたしました。そして、エアシャワーにもこだわりました。多くの不妊治療施設には培養室前にエアシャワーが常設されています。
エアシャワーがない施設は論外ですが、仮にあったとしても体に付着した粉塵などは、エアシャワーによって下へ落ちます。当然、粉塵は下へ溜まります。これをきちんと処理できていなければ、いくらエアーが噴射されても、下にたまった粉塵が舞うだけで、全くクリーンな状態にはなりません。当クリニックでは、そこも配慮し、「下吸い」機能のあるエアシャワーを設置いたしました。
結果的には、培養室(精子調整室、タンク室含む)の清浄度は、最高でクラス100(NASAが定めた単位で、手術室内のクリーン度を表示する際に使われる単位。数字は空気中に浮遊する塵や細菌数を示しています。一般の手術室の基準はクラス10000で、数値が低いほど室内がクリーンとされ、クラス100は無菌室や臓器移植手術が行われるレベルの清浄度)まで到達し、多くの不妊治療施設が提供しているクラス1000~10000を凌駕しました。
エアシャワーです。
実際に私が以前勤務していたクリニックがクラス1000でしたから、それよりもクリーン度が高いということでじつは私自身も驚いています。おそらく、クラス100の培養室を持った不妊治療施設はほかにはないと思います。
次に「治療の可視化」にも配慮いたしました。胚移植時に、移植する胚をモニターに描写する様式はどこのクリニックでもされていますが、我々は実際に胚培養士が顕微授精を行っている様子を、体外受精専用待合室のテレビモニターに映し出します。これを見て頂ければ、皆様の大切な胚を、胚培養士が受精から胚発育まで大事に扱っている様子が窺い知れると思います。培養室では、どんなことをしているの?という、疑問を持たれている方も多いかと思います。我々は、すべてを隠さずに培養室の様子まで皆様にお見せしようと考えています。
最後に、待ち時間対策です。いまや、不妊治療クリニックでは、2-3時間待ちは当たり前で、場合によっては6-8時間待つクリニックもあるそうです。でも、実際にそこまで待てるものでしょうか? 不妊治療を受けられている方の中には、仕事をされている方もたくさんいらっしゃるはずで、皆さん貴重な時間をやり繰りして、なんとか時間を見つけて通院されているのです。
私は、あらゆる情報の電子化、診察室に医療クラークを配置、結果が早く出せるホルモン測定機器の導入、自己注射の促進などを通して、待ち時間をできるだけ少なくするように工夫をしていこうと考えています。
先生の目指す医療と言われている
「エビデンス(evidence:根拠)にはじまり、ナラティブ(narrative:対話)におわる医療」について詳しく教えてください。
医療においては、当然、患者さんに最も有効と考えられる治療を施すべきなのは言うまでもありません。これがEBM(Evidence-Based Medicine) であり、ナラティブ(narrative)は、「対話、物語」という意味で、NBM(Narrative-Based Medicine)というのは、わかりやすくいうと最終的な治療方針は、ご夫婦との対話によって、決めていくという手法を指します。夫婦で学べるDVDルームです。
エビデンスとは「科学的根拠」のことで、主に臨床試験によって得られた医学的統計データのことです。信頼度の高いエビデンスとされているのはランダム化比較試験によるデータで、たとえば対象となる患者さんを無作為に2つのグループに分け、一方にはAという治療を、もう一方にはBという治療をそれぞれ行い、その結果(治療成績)を比較します。ランダムに取り出していますから、患者さんの背景は同じはずですから、その結果が統計学的によかったほうの治療がより有効な治療であると考え、そちらを採用しましょうというのがEBMです。
ただし、EBMにも限界があります。エビデンスにもとづいた治療が、必ずしも目の前の患者さんにとっての正解であるかどうかまでは教えてくれません。たとえば、健康診断で血圧が高かったとしましょう。エビデンスでは5年間降圧剤のお薬を飲み続けた人たちは、飲まなかった人たちに比べると、脳卒中になる確率が30%下がると結論づけたとします。だからお薬を飲みましょうということになるのですが、お薬を飲まなかったら、仮に100人中3人が脳卒中を発症したのが、お薬を飲むことによって1人になったわけです。
メンズルーム(採精室)です。
つまり、お薬を飲んでも1%の人は脳卒中が発症し、お薬を飲まなくても97%の人は発症しないわけです。降圧剤の内服を否定するつもりは毛頭ありませんが、これをnarrativeの中でうまく伝える事によって、あるいは薬を飲み続けることに抵抗がある患者様に対しては、「EBMで証明されているのだから、この薬を飲みなさい」から、「あなたは、いろんな検査から脳卒中リスクはそれほど高くはありません。だから、血圧を下げるためにまずは生活習慣の改善からはじめましょう」、という提案もできると思うのです。
特に、不妊治療を行う上での目標は妊娠だけではなく、妊娠から出産まで、さらには産まれてくるお子様の将来のことまで配慮する必要があると考えています。それだけに、目標へたどりつく過程も非常に重要だと私はつねづね考えており、最終的な対話、narrativeによって授かった命は、きっといつまでも大切にされていくことだと思います。