糖尿病神経障害の針を刺す痛み、電撃痛、灼熱痛などは苦しみ以外の何ものでもありません。なんとしても予防しなくてはなりません
米国では1996年から2008年の間に足の切断が65%も減りました。早期発見とリスクマネージングの成果です。日本でも「足に痛みやしびれがあれば担当医に報告しよう!」というポスターが病院内に掲示されることがありますが、実はこの程度では不十分なのです。なぜなら、神経障害には明らかな自覚症状を示さないものも多いのですが、現在の医療では神経伝導検査で知覚神経や運動神経の障害を早期の段階で診断できるからです。自覚症状が出る前に予知、予防をしてこそ、治療と言えるのではないでしょうか。
神経障害は最初は音もなく忍び寄りますが、重症になると患者の人生を悲惨なものにしてしまいます。神経も腎臓も眼も早期診断が分岐点です。担当医任せにしないで、専門医によるセカンドオピニオンを参考にしましょう。
体のほかの部分にさまざまな指令を出す脳と脊髄は中枢神経と呼ばれますが、それ以外の体の各部にはりめぐらされた神経を末梢神経といいます。糖尿病神経障害はこの末梢神経の異常です。糖尿病患者は自律神経障害にも苦しみますが、自律神経も末梢神経の一部です。当記事では自律神経の項目を別に設けます。
糖尿病の末梢神経障害の症状、早期発見の方法
とても長くて英語も日本語もひと息では言い切れませんが「末梢左右対称性多発性神経障害 distal symmetric polyneuropathy」という病名があります。以下、末梢神経障害としますが、糖尿病性の神経障害の95%はこれであると言われています。末梢神経障害では最初に体の中で最も長い神経に異常が現われます。体の最長の末梢神経は足の感覚をつかさどる神経ですから、しばしば最初に足の先(指先)の感覚が鈍くなり、それがしだいに体の中心に向って広がってきます。腕と手でも神経の先端である指先から感覚がなくなったり、しびれたりします。ちょうど両手両足(左右対称性)に手袋をつけ、靴下をはいたような異常感覚の現れ方をするので「手袋靴下型」と呼ばれます。
日本ではいつまでも担当医任せのようですが、米国糖尿病協会は年一回の末梢神経障害のスクリーニングを推奨しています。2型糖尿病患者はいつ発症したのか不明ですから、糖尿病と診断された時からスクリーニングを始めます。1型糖尿病患者は発症後5年経過してから毎年行います。
糖尿病神経障害を発見するための3つのチェック
以下の自覚症状、他覚所見、神経伝達検査の評価で、一定の項目が該当すれば糖尿病神経障害とみなされます。■ 自覚症状の問診
早期発見 スクリーニングでは医師は典型的な症状を問診します。「浴室のタイルの上を歩いた時に砂利を踏んだような感じがするか?」 「ベッドシーツや衣服が足先に触れただけでぴりっと痛むか?」 「しびれや針で刺すような痛みは?」 「電気ショックやピリピリ感は?」 「それとも無感覚?」 これらの自覚症状は患者のQOLに大きく影響します。
すべての末梢神経障害が痛みを伴うものではありません。この神経障害の半分以上は無症状なのです。大事なことは、自覚症状がないことは神経障害がないことを意味していないということです。
■ 他覚所見のスクリーニング
かすかな知覚の喪失は痛みのある神経障害と同じように悪いものです。そのためモノフィラメント検査をしたり、アキレス腱反射検査や音叉を使ってものの振動をどのくらい知覚できるか、冷めたい物を押しつけて知覚できるか等を検査します。これらの他覚所見を定期的にスクリーニングしてくれない医療プロバイダーがいかに多いことか、読者の皆さんは先刻ご承知でしょう。
■ 神経伝達検査での診断
脳神経の専門外来で診断してくれるのが神経伝達検査です。これは末梢神経を電気的に刺激して、そのときに現われる反応をモニター上に波形として映し出すことによって神経の伝える電気信号の強さや伝達速度を調べることができます。また、自律神経に異常がないかどうか調べるため、心電図をとることもあります。
糖尿病末梢神経障害の治療法
末梢神経障害の完治は望めませんが、いろいろな治療法が試みられています。最も大事なことは良好な血糖コントロールを維持することです。長期間の血糖不良の後に、急激な血糖改善によって痛みが逆に強くなる「治療後神経障害」をきたすことがありますが、だんだんよくなるものです。薬物療法によって症状を緩和することも行われています。カプサイシンクリームは患者にとって手近なものですが、しびれを抑える薬として抗けいれん薬、抗不整脈薬、抗うつ薬、アルドース還元酵素阻害薬などが使われます。有痛性神経障害ではプレガバリンが日本でも欧米でもよく処方されています。担当医とよく相談することです。
神経障害を発見する検査法はいろいろ開発中ですが、患者の皮膚のほんの一部を取って神経細胞の数をカウントして障害のレベルを判定したり、知覚細胞の伝導能力を検査する装置や温度変化による神経細胞の反応を計測する装置、あるいは眼底の視神経を顕微鏡で形状や数を検査して、足の末梢神経の状態を予知しようという試験が話題になっています。
さて、次回は自律神経障害を取り上げます。心臓、胃や腸、ぼうこう、発汗などです。