木皿泉『昨夜のカレー、明日のパン』
「すいか」「野ブタ。をプロデュース」「Q10」など、名作ドラマの脚本で知られる木皿泉が、初めての小説作品を上梓しました。『昨夜のカレー、明日のパン』。7年前に夫の一樹を亡くしたテツコとギフ(義父)の不思議な同居生活と周囲の人々を描く連作短篇集です。まず第一話の「ムムム」。笑わないことから「ムムム」と呼んでいる隣家の娘がある日笑ったのはなぜかということと、テツコが恋人のプロポーズを喜べないのはなぜかということが語られます。鍵になるのは、ギフのこの台詞。
「人って、言葉が欲しい時あるだろう?」
大事な何かを失ったり、傷ついた人の強張った心をさりげなくゆるめてくれる言葉が、本書には散りばめられているのです。「うまいこと言った」感じの名言ではなく、その場でその人が発するからこそ光る言葉を置く。木皿泉のドラマにも通じるところがあります。