村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
前作の『1Q84』と比べて、ストーリーはシンプル。鉄道会社で駅舎の設計をしている多崎つくるには、高校時代にボランティア活動を通して仲良くなった4人の親友がいました。彼らは苗字に含まれている色からアカ、アオ、シロ、クロと呼ばれていましたが、つくるだけ名前に色彩を持っていませんでした。大学二年生のとき、突然、4人はつくると絶交します。理由はまったく思い当たりません。36歳になったつくるは、恋人の沙羅にすすめられ、4人ともう一度会って話そうとします。タイトルそのままです。
語りは三人称ですが、つくるのナイーブで傷つきやすいキャラクターはいつもの村上春樹の「僕」っぽい。『ノルウェイの森』の直子を思わせる女性も出てくる。他の作品を想起させるモチーフや、得意の比喩もふんだんに散りばめられています。
鴻巣友希子さんの書評では、登場人物の名前が色という共通点があるポール・オースターの『幽霊たち』に言及していました。灰田(グレイ)と緑川(グリーン)が出てくる話が印象的ですし、『幽霊たち』を思い出す読者は多いでしょう。
つくるが名古屋出身で名古屋についての記述が多いことから、わたしはトラベルエッセイの『東京するめクラブ 地球のはぐれ方』も連想しました。