企業年金の受け取り方、どちらがおトク?
企業年金は「年金」と名前がつくように、定期的に支給される年金払いが原則です。しかし、もともとは退職一時金を由来としていることもあり、「一時金」として受け取る選択肢もあることが一般的です。つまり、一括で受け取ってしまうこともできるわけです。この受け取り方法は、企業年金ごとにルールが定められていますが、一般的には「一時金受け取りは可」とし、希望するなら「25%、50%、75%、100%のように一時金の割合を決めて残りを年金受け取りする」となっています。もちろん一時金を取らずに全額を年金受け取りにしても構いません。
こうなってくると、「年金」で受けるのと「一時金」で受けるのとどちらがトクかが気になります。今回は「企業年金の受け取り方」を考えてみます。
企業年金を一時金でももらうメリットと注意点
企業年金をあえて一時金でもらうメリット、注意点をまとめてみます●ローン返済等に企業年金をすぐ活用できる
住宅ローンや教育ローンを残したままで年金生活に入ってしまうと、公的年金収入や企業年金収入の一部をローン返済に回さなくてはなりません。企業年金を一時金受け取りして一括返済してしまうことで、ローンの返済を終え、すっきりとセカンドライフをスタートすることができます。一括返済したほうが金利負担も軽減できお得です。
●旅行や大型出費のために取り崩しできる
セカンドライフの門出を祝して旅行に出掛けたいとか、住宅のリフォームをするといったような大型出費がある場合、これを借金して実現するわけにはいきません。企業年金の一部を取り崩すことができれば、こうした資金ニーズに対応できます。定年退職後に叶えたかった夢を実現することもできるわけです。
●(注意)老後の生活の安定に黄色信号
定期的な老後の収入として、国の年金に加えて企業年金のあることは、安定的な老後生活に役立ちますが、一時金として受け取ることでその額が減ってしまいます(全部一時金にすれば当然ながら企業年金はゼロになります)。老後の家計管理を自分で計画的に行う必要があります。
●(注意)運用や資産管理は自分で行う
企業年金はある意味、「高利がつく銀行預金口座」のような側面もあります。年金生活の間、一定の利回りが保証されており、定期的に取り崩しをして振り込みをしてくれる仕組みだからです。一時金で受け取り、具体的な用途のない資産については、自分で運用しなければなりません。企業年金内では非課税で運用されますので、その分を上回る成績をあげて運用し、計画的に取り崩す必要がります。
年金受け取りを行うメリットと注意点
今度は、企業年金をそのまま年金受け取りするメリットと注意点をまとめます。●管理と運用はお任せで手数料不要
企業年金受け取りの最大のメリットは、管理と運用の手間がなく、振込手数料等も負担しなくてすむことです(確定拠出年金の場合のみ、運用は自分で行い、振込手数料も自己負担になることがある)。一時金で受け取ったら1000万円のところを10年有期年金、年2.5%で受け取る場合、10年間の受取総額は1131万円となります。この差はなかなか稼げるものではありませんが、年金払いにしておけば自分で投資先を考える負担がいらないわけです。
●計画的な受け取りが可能となる
一時金の場合、計画性がないとパーッと使ってしまって、数年でほとんど取り崩してしまう恐れがあります。銀行の普通預金残高が1000万円以上あって、これを毎月5万円ずつ取り崩すようなことはなかなか難しいからです。企業年金の場合、原則として隔月、指定口座に振り込まれますから老後の生活費として計画的に使えます。
●(注意)給付の減額がありうる
企業年金受け取りの不安があるとすれば、給付の引き下げです。企業年金の資産運用が低迷した場合、OBも含めて給付の引き下げを行うことがあります。個人的に拒否をした場合であっても、OBの3分の2以上の同意があれば全員を対象に引き下げが行われます。定年退職後、会社の業績が低迷している場合などは予定通り年金をもらえない可能性があります(確定拠出年金の場合、給付引き下げは絶対に行われません)。
比較のポイントは税金と生活設計のバランス
年金受け取りと一時金受け取りの違いについて、基本的な損得について説明してみました。まずはライフスタイルやライフプランを重視して、年金か一時金かは検討するといいでしょう。しかし、最後にもうひとつ比較のポイントをご紹介しておきます。それは「税金」です。退職一時金については、単体で「退職所得控除」という非課税枠が適用されます。これはかなり大きな優遇枠であるうえ、上回った差分も実際に課税されるのは2分の1ですみます。
会社から受け取った退職一時金、企業年金の一時金受け取り分、中小企業退職金共済の給付などを合計して、この非課税枠を考えますが、仮に22歳から60歳まで38年働いた人の場合、退職所得控除は2060万円です。ここまでの範囲については一時金受け取りのほうが有利になる可能性が高いといえます(ただし、その後の運用は通常の課税が行われる)。
年金受け取りの場合、国の年金と合算して「公的年金等控除」が受けられます。これにより実際の年金額より少ない額を所得として申告することができます。
しかし、会社員であった人は厚生年金と国民年金(基礎年金)の受取額合計がこの非課税範囲を超えていることが多いため(65歳以上の場合で年収が158万円以上だと課税対象になる可能性が大)、企業年金の年金受け取りについては一部引かれることを考えておく必要があります(復興所得税を加えて7.6575%を源泉徴収し、確定申告で精算することが多い)。
企業年金がどれくらい課税されそうかは、受け取り前に会社の企業年金担当者に相談をすれば試算等も行ってくれますので、じっくり検討してみるといいでしょう。
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