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AIJ問題の余波は大きい?企業年金脱退裁判の行方

ある厚生年金基金に加入していた事業所が、脱退の希望を拒否するのは不当と裁判を起こし、勝訴したことがニュースになりました。誤解の多いテーマなので、分かりやすく解説します。

山崎 俊輔

執筆者:山崎 俊輔

企業年金・401kガイド

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厚生年金基金から自由に脱退する権利はあるのか?

8月24日の夕刊あたりから、「厚生年金基金の加入事業者の脱退を認める判決」というようなニュースが流れています。これは、長野県にある厚生年金基金(長野県建設業厚生年金基金)に加入していたある企業が、厚生年金基金からの脱退を申請したものの、代議員会の承認が得られず、裁判を起こしたものです。

私はまだ、判決文を直接見ていませんが、(1)厚生年金基金が脱退について規定を設け、脱退を制限することは認められる、(2)しかし「やむを得ない事由がある場合」は代議員会が認めなくても脱退できる(同基金は23億円にものぼる使途不明金が生じ、業務上横領で元事務長が指名手配されるも逮捕に至っていない)、(3)厚生年金保険法に脱退のルールが定められていないことには問題がある、といった判断が示されたようです。

現在、厚生年金基金は業界団体が設立している総合型という形態がほとんどです。そこに中小企業がたくさん加入しています。業界団体に加入するような感覚で厚生年金基金に加入するのはいいのですが、脱退を希望した場合の規定は根拠法である厚生年金保険法には明示がなく、それぞれの厚生年金基金ごとに事業所脱退の規定を定めています。多くは理事会や代議員会の承認を要件としており、これがハードルとなって自由な脱退ができないというケースが生じていました。

すでにいくつかの訴訟が起きており、脱退について両者が合意し、和解に至ったケースもあります(ワコムの例はこちら )。今回は基金が脱退を認めなかったため、地裁の判決が出たものです。

厚生年金基金は国の厚生年金の一部を代行して管理・運営していますし、みだりに加入や脱退が行われると制度運営の安定性を損ないます。特にスケールメリットを活かした制度運営が困難になることが懸念されています(すでに規模が縮小している業界ほど影響は深刻)。

一方で、必要な条件を満たす(例えばすでに生じている積立不足について、社員分についてはきちんと払うなど)のであれば、脱退を制限することが行きすぎではないかという議論もあります。今年の2月にAIJ投資顧問会社が厚生年金基金等の運用資産を1900億円近く損失させた事件などを考えると、この判決が「加入企業の厚生年金基金脱退を加速する」のではないかとされています。

→簡単に脱退は加速しない理由がひとつある。次ページへ
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