PM2.5は心臓にも悪い?―――本当はどうなの?その対策は?
地球温暖化が砂漠を拡大しています
これまでも黄砂の中に含まれると言われる「PM2.5」、つまり直径2.5ミクロン以下の微小粒子状物質が肺などに悪影響があることが心配されていました。
PM2.5は従来から大気汚染の原因として対策が進められて来た10μm以下の粒子である浮遊粒子状物質(SPM)よりも小さな粒子で、小さいからこその難しい問題があるのです。
そうした中で、今回、権威あるヨーロッパ心臓協会ESCでPM2.5が肺だけでなく心臓病患者さんの生存率にも悪い影響があるという研究結果が発表され、注目を集めています。
AFP通信によるPM2.5に関する報道
まずその研究内容と結果をAFP通信の報道を引用し、考えてみましょう。***********AFP通信から**************
【2月25日 AFP】アジア各都市で大気汚染の原因として問題視されている高濃度の微小粒子状物質(PM2.5)にさらされた人の間では、心臓発作で死亡する例が激増するとの研究結果が20日、欧州心臓病学会の医学誌「ヨーロピアン・ハート・ジャーナルに発表された。
粒径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質、いわゆる「PM2.5」の大半は、石炭・石油を燃料とする火力発電所や、ガソリン車やディーゼル車の排気ガスから生じる。直径が人間の毛髪の太さの約30分の1と非常に細かいため、肺の奥にとどまりやすく、呼吸器疾患の原因と指摘されて久しいが、心臓への影響についてはよく分かっていない。
英ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine、LSHTM)のキャサリン・トン(Cathryn Tonne)氏率いるチームは、2004~07年にイングランドとウェールズで心臓発作を起こして病院へ搬送された患者15万4000人について調査。退院後3年以上にわたって追跡したところ、調査期間中に4万人近くが死亡していたという。
社会経済的地位や喫煙歴といったPM2.5以外の要因を除外すると、PM2.5にさらされたことと早期の死亡との間に明確な関連性が現れた。トン氏によれば「1立方メートルの大気中のPM2.5の濃度が10マイクログラム増えるごとに、死亡率は20%上昇していた」。一方、もしPM2.5の濃度が自然の 状態程度だったならば、調査期間中の死者数は4873人、つまり12%程度低かっただろうという。
世界保健機関(World Health Organization、WHO)が定めているPM2.5濃度の環境基準目標は、24時間平均値が1立方メートル当たり25マイクログラム以下、年平均値が同10マイクログラム以下だ。
中国の北京では1月、WHO基準のほぼ40倍に相当する1立方メートル当たり993マイクログラムのPM2.5濃度が観測された。欧州における血栓症の権威であるイタリア・ミラノ大学のピエール・マヌッチ(Pier Manucci)教授は、「イタリアだったらPM2.5濃度が100マイクログラム前後でも懸念されるのに、北京では1000マイクログラムに届きそうな値なのだ。健康リスク・影響も桁違いだということが分かるだろう」と述べている。(c)AFP
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中国・インド・日本……アジアの大気汚染の現状
大気汚染がアジアで猛威をふるっています
中国北京の天安門広場ではこの2月末、PM2.5の大気中濃度が1立方Mあたり469μgを記録しました。これはアメリカ環境保護局EPAの大気質指数の479に相当し、301以上が危険と言われる中で極めて危険な数値です。ちなみに日本の安全基準は35、外出控えは70μgで勧められていることを考えると恐るべき大気汚染です。
以下に今年1月のPM2.5濃度のアジアでの分布図を示します。
PM2.5のアジアでの分布を示します。
中国が飛びぬけて汚染されており、インドもそれに続いているのがわかります。
インド洋が汚染されているのはその場所に原因がないことから風の影響かと考えられます。
日本は中国からの偏西風の影響で少なからず汚染されている地域が西日本を中心に見られます。
これを反映してか、中国では過去30年に肺がんによる死亡数が465%も増加しています。肺がんの主因のひとつである喫煙率は過去10年間に増えていないことを考えると異常な上昇です。さらに2007年の世界銀行の報告書では中国では大気汚染による死亡が毎年75万人もあると記載されています。
PM2.5などの大気汚染がここまで進んだ理由
世界の石炭の生産量と埋蔵量。中国の石炭生産は世界一です
石炭は単位発熱量あたりの二酸化炭素(炭酸ガス)排出量が最も多い、最も汚い化石燃料です。石油資源に乏しい中国が現在の経済発展を続けるには石炭を燃やすしか道がないからです。事実、中国政府関係者は石炭火力発電を止めるわけにはいかないと主張しています。
しかしそれは地球温暖化に拍車がかかることにもなり、健康被害に留まらない大問題です。
石油資源が豊富な尖閣諸島に中国政府が執着しているのはこうした事情もあるのかも知れません。だからといって他国の領土を、ある日突然自国領と宣言して横車を押すのはいけませんが。
石炭に多く依存しているという意味ではインドも中国に近い状況にあります。そのためインドでも同じPM2.5や大気汚染の問題が深刻化しています。
アジア諸国での空気汚染の原因は、上記の石炭火力発電だけでなく、ディーゼル車のトラックやバスの排ガス、車のガソリンの不完全燃焼、焼畑農業、伝統的なたき火などが挙げられます。
なぜPM2.5が特に危険なのか
大気汚染にもいろいろなものがあります。PM10と呼ばれる直径10μmの微小粒子もさまざまな問題を引き起こします。これにも対策を立てる必要があります。たばこは肺を黒く変性させ害を与えますが、PM2.5はたばこよりももっと深く肺の中に侵入し体に害を与えます
1.長期間、大気中にとどまる酸化水銀や鉛などの重金属と、その他の有機化合物に付着する
2.鼻毛のような人体の防御機能ではブロックできない
つまりサイズが小さいため、どこにでも入り、悪さをするのです。しかも通常の集塵装置では直径2.5μm未満の粒子であるPM2.5はちいさすぎて捕捉できないという問題があります。
PM2.5のも
PM2.5の増加はCO2の増加に直結です
それが地球温暖化です。
PM2.5 が増えるということは、かなりの程度で石炭の使用量が増えることであり、それは二酸化炭素の増加を介して地球温暖化に拍車をかけやすいからです。
PM2.5は心臓病患者さんにとってどう危険なの?
まだまだ詳細は不明です。ディーゼル排気の吸入で心臓の心内膜に炎症を起こすという報告があります。日本ではSPMの総排出量の約40~60%はディーゼル自動車由来の排気微粒子(DEP)であり(東京都環境科学研究所年報,1989)、そのSPMの約80%は粒径 2.5μm以下の微粒子(PM2.5)であると言われています。
心臓や心臓を支える血管を悪くするか、全身の臓器を弱める結果、心臓病患者さんの生存率を下げるのか、まだまだ推論の域を出ていないようで、今後の研究が待たれます。
PM2.5、子どもと高齢者は要注意
こどもとお年寄りはPM2.5にとくに弱く、注意が必要です
こどもは屋外にいる時間が長く、PM2.5にさらされることが多いですし、高齢者はぜんそくや気管支炎などの病気を抱えがちで、PM2.5に普通以上にやられやすいからです。
今回のヨーロッパ心臓病学会の発表からは、心筋梗塞などの心臓病の患者さんも注意されるのが良いでしょう。
それでは私たちにできるPM2.5防衛策
まず空気が汚れているときには家屋の外に出ないことが大切です。家に入る前に衣類をはたくのも役立つでしょう。空気清浄器のある部屋や建物などの内部にとどまるのが勧められます。ただしオゾン発生機能付きの空気清浄器は避けるべきです(オゾンはPM2.5発生原因のひとつであり、より小さいためより肺の奥深くに達し、かつ有毒物質だからです)。高性能フィルターを使い、PM2.5対策をうたった製品が人気を集めています。
屋内では暖炉で木を燃やすとか、掃除機の使用は避けて下さい。掃除機は微粒子を空中に巻き上げるからです。その意味で床の水拭きは有用です。
もちろん喫煙はダメです。近年の公共の場での禁煙令のため屋外で喫煙を楽しむ方が増えましたが、これはPM2.5とタバコの煙を同時に吸うことになり、最悪です。
なお必要あって長時間屋外で過ごすときには、N95かP100などの高性能マスクが良いでしょう。品質保証のあるものが勧められます。花粉対策用のゴーグル、うがい、目の洗浄、布団や洗濯物を室外に干さないことも役立つでしょう。
おわりに
PM2.5の増加とその原因、対策などを論じました。今後心臓病に対する位置づけがさらに明確になるものと思いますが、心臓病の患者さんにはご注意していただくのが良いでしょう。参考資料: 心臓外科手術情報WEB 心臓病や心臓手術に関する情報を集めています。