吉田松陰も風呂を愛していた
チッテリオによる「リビングバス」の提案。まるでソファの代りにバスタブが置かれているようだ。水栓やバスタブにはハンスグローエの製品を使用している。 |
仕事から帰って一番の楽しみは、何といってもお風呂です。湯船でゆったり湯につかるという習慣は、江戸時代から続く日本独特の文化であり、かの吉田松陰も、農作業をした後で、貧しいとはいえ毎晩湯につかるのが家の習わしだったそうです(司馬遼太郎『世に棲む日日』より)。
さて、お風呂場というと、北側の家の隅に作られることが大半でした。従来の風呂場は防水が万全ではなく、水漏れによって家の土台が腐ったり、湿気がたまったり、白アリの原因にもなりました。
それが大きく変化したのはユニットバスの登場からです。初期の頃はホテルで採用されていましたが、今では大半の住宅やマンションにユニットバスが利用されています。最近はデザイン性や機能性が高くなり、パーソナルなバスライフには充分です。
お風呂をコミュニケーションの空間に
カジュアルな雰囲気のマソーの提案。家族のコミュニケーションをより深めそうである(円形のバスタブはプロトタイプ)。写真提供:ハンスグローエジャパン |
防水の問題のないユニットバスは、ほぼ希望通りの場所にプランできるようになりました。その先にあるのは、コミュニケーションのためのバス空間です。ホームパーティの中心となったり、恋人との語らいの場、家族のコミュニケーションの場として、さらに進化していく可能性があります。
ヨーロッパではいま、バスルームのリビング化が進んでいます。例えば、人気デザイナーであるアントニオ・チッテリオやジャン・マリー・マソーが提案するバス空間は、まるでバスタブのあるリビングというスタイルです。ローマの浴場や日本の温泉のように、人々の交流の中心となります。
特徴的なのは、木目をふんだんに使った内装であることや、暖かみを持った色で構成されていることです。木に水がかかったり、湿気の問題はありますが、すでに温泉旅館などでは、個室に温泉があるスタイルは珍しくなくなっています。
洗体と入浴を分けて考える
左にはシャワーブース。右にバスタブを配置したチッテリオのプラン。風呂上がりはウェグナーがデザインしたラウンジチェア(中央)で、ゆったりとくつろげる |
洗体をきちんと防水されたシャワーブースで行えば、入浴については水が飛び散る心配は少なくなります。もちろん湿気がでたり、水があふれたりする可能性はありますから、換気扇や排水溝を用意する必要があります。
しかし、夢のようなリビングバスも、実現可能な段階にきています。後は建主の思い入れしだいといえます。長い時間を風呂場で過ごす方ならば、そこを一番の空間にするのは当然のことです。こうした柔軟な考えもプランニングには必要ではないでしょうか。
次のページで、デザイナーズ洗面ボウルの新作を紹介します。