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沖縄の戦跡(後編)(2ページ目)

戦後70年が過ぎようとしている今、戦争の実相を知っている人たちがどんどんこの世を去り、後に残されるのは戦争を知らない世代の人間ばかり。戦争について語られることなく戦争という事実が風化されてしまうことが危惧されています。後編では、沖縄本島南部以外のエリアに残された戦跡をご紹介するので、沖縄を訪れた際にはその中のひとつでもふたつでも立ち寄ってみてください。

小林 繭

執筆者:小林 繭

沖縄ガイド


沖縄本島以外の戦跡

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沖縄のどこにでもある風に揺れるサトウキビ畑の風景。ここが昔戦場であったことを後世代に伝えていくのは大切な仕事ではないでしょうか


沖縄戦というと沖縄本島の戦いのイメージを持つ方が多いかもしれませんが、沖縄本島以外の離島でも戦闘は繰り広げられました。米軍が沖縄本島上陸を目指し、最初に上陸したのは慶良間諸島。慶良間では住民の集団自決という最悪の惨事が起こっています。また沖縄戦の中でも激戦地として知られる伊江島は、当時東洋一と言われた飛行場を巡り激しい戦闘が繰り広げられました。このあまり大きくない島で千人以上の住民が亡くなりました。また本島から東に約360kmも離れた大東島、そして本島南部の平敷き屋港から船で15分で行くことのできる津堅島も激しい戦いが繰り広げられた後占領された島です。

宮古や八重山の離島に関してはあまり戦争とリンクして考えない方も多いと思いますが、地上戦こそ繰り広げられていませんが空襲や艦砲射撃による攻撃と、深刻な食料不足やマラリアにより多くの犠牲者を出しています。特筆すべきは、戦争マラリアによるマラリア地獄。日本軍による命令でマラリア汚染地への強制疎開が行なわれ、マラリアによって命を落とした犠牲者は3000人とも4000人とも言われています。沖縄の離島の人口から見る3000という数字の意味を考えてみてください。特に、マラリア汚染地でなかった波照間島から汚染地である西表島への疎開を強制された波照間島では、実に島民の3人に1人がマラリアで命を落としています。戦争マラリアの本島の悲劇は戦争が終わってから始まったというのが、地上戦が繰り広げられたのとはまた違う意味においての戦争悲劇だと言えるのではないでしょうか。

アハシャガマ(伊江島)
伊江港から車で10分ほどの場所にアハシャガマと呼ばれる戦時中住民が避難した壕があります。120~150人の住民が避難しましたが、生き残ったのはたったの20人あまり。遺骨が収拾されたのは戦争終結から26年もたった1971年のことでした。
住所:伊江島 伊江島カントリークラブの脇

■公益質屋跡(伊江島)
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コンクリートの壁に残る大小様々なクレーターは、当時の戦闘の様子を生々しく伝えてくれる


伊江島の集落の中心地にある公益質屋跡は、激しい戦闘が繰り広げられ全てが焼き尽くされた伊江島において唯一残った建物です。鉄筋2階建ての建物にはおびただしい数の弾痕が生々しく残ります。
住所:伊江村東江上75


■芳魂之塔(伊江島)
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伊江島の目印、タッチューに行く途中にある芳魂之塔。伊江島の戦闘で命を落とした人々の名前が彫られている


伊江島の戦闘では、守備軍将兵約2000人と島民1500人、合計約3500人の犠牲者が出たと言われています。集落の高台にはこの犠牲者たちの魂を祀った芳魂之塔が建てられ、伊江島の戦闘が終結した毎年4月21日に慰霊祭が開かれています。
住所:伊江村西江前


■平和資料館 ヌチドゥタカラの家(伊江島)
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山盛りにされた弾丸や兵器。伊江島をはじめ、沖縄の地には今もまだ数多くの不発弾が眠ります


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修学旅行生や平和学習で訪れる人も多い、伊江島の戦争を保存する施設なので、伊江島観光の際にはぜひ訪れて欲しい

伊江ビーチの手前にある伊江島戦を知ることのできる資料館です。戦後島のあちらこちらに置き去りにされていた武器や兵器、兵士たちの持ち物や、血痕が染み付いたままの住民の服等々、あらゆる戦争にまつわる資料がところ狭しと展示されています。当時の様子を写した写真や、寄せ書き、そして二度と同じ過ちを繰り返さないよう生命の尊さを訴える言葉が並び、伊江島での戦いから戦争を見ることができます。ヌチドゥタカラとは命こそ宝という意味です。
住所:沖縄県国頭郡伊江村字東江前2300-4
TEL:0980-49-3047
開館時間:8:00-18:00(年中無休)

■アーニー・パイルの碑(伊江島)
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ジャーナリストとして伊江島で最期を遂げたパイル氏の碑。沖縄戦では米軍もまた多くの命を失っています


ピュリッツアー賞受賞従軍記者として有名なアーニー・パイル氏もまた、沖縄戦で命を落としたひとり。伊江島上陸後わずか2日で襲撃を受け還らぬ人となりました。最期の地となった伊江島には記念碑が建てられています。
住所:伊江村川平



■平和の火 採火記念碑(阿嘉島)
阿嘉島港のすぐ前に建つこの記念碑は、1945年3月26日に米軍が上陸した地に建っています。沖縄戦最初の米軍上陸地でした。米軍はこの後、慶良間の他の島を占領して本島の読谷へと侵略を進めたのですが、26日から27日にかけてのわずか2日間で集団自決に追い込まれた島民の数は、渡嘉敷、座間味、慶留間の3島で約600名にもなったといいます。

■平和之塔(座間味島)

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座間味村の犠牲者の魂を祀る平和之塔。慶良間における沖縄戦の記憶もまた壮絶なものです 写真提供:座間味村役場


座間味港から集落を抜けて高月山展望台へと行く途中にある平和の塔は、米軍の慶良間襲撃をうけて犠牲になった島民と軍兵併せて1320柱の魂を鎮める平和祈願の塔です。座間味村では毎年3月26日を慰霊の日とし、5年ごとに慰霊祭を行なっています。ちょうど、今年2013年は慰霊祭開催の年にあたります。
住所:沖縄県島尻郡座間味村座間味
問合せ:沖縄県島尻郡座間味村観光案内 098-987-2277

■白玉之塔 (渡嘉敷島)
渡嘉敷島の北東部にたたずむ、犠牲になった島民と軍兵の魂594柱を祀る塔です。当初、島民が自決した場所に建てられましたが、その後米軍基地として接収されたため現在の場所に移されています。渡嘉敷村では集団自決があった毎年3月28日を慰霊の日として慰霊祭を行なっています。
住所:沖縄県島尻郡渡嘉敷村字渡嘉敷イシッピ原 1845

集団自決跡地碑 (渡嘉敷島)
1945年3月28日、追いつめられた渡嘉敷の島民たちが後方にある谷間で集団自決が行なわれた場所として、集団自決跡地碑が建てられています。
住所:沖縄県島尻郡渡嘉敷村字渡嘉敷地志布原2772


八重山平和祈念館(石垣島)
石垣島市街地にある八重山平和祈念館は戦争マラリアをテーマとして様々な資料が集められた資料館です。戦争マラリアの特徴は、戦争自体が終わってもマラリア地獄は続くという点です。悪性マラリアがはびこる石垣島と西表島山間部へ軍の都合による島民の強制疎開が引き起こした悲劇は、戦争によるまた違う形での無意味な惨劇を物語っています。
住所:沖縄県石垣市新栄町79-3
TEL 0980-88-6161


■戦争マラリア犠牲者慰霊碑(石垣島)
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地上戦が繰り広げられるだけではない、戦争の惨劇を教えてくれる八重山の戦争マラリア


石垣島のパンナ公園に建てられた八重山戦争マラリア犠牲者を慰霊する碑です。建立されたのは1997年のことなので、新しい碑ではありますが、それは島民たちの訴えにも関らず、八重山における戦争被害に目を向けられることがなかったという戦後の流れに他ならないでしょう。パンナ公園には他にも1670人余の八重山出身の軍人を祀った「八重守之塔」、徳島によって編成され石垣島に駐屯中に空襲やマラリアによって多くの命を落とした「球第6463部隊の碑」があります。
住所:沖縄県石垣市石垣961-15
TEL:0980-82-6993

■忘勿石(わすれないし)之碑(西表島)
忘勿石は、西表島の南風見田に建てられた戦争マラリアによって亡くなった波照間島民の悲劇を今に伝える石です。波照間島の島民が強制疎開された西表の南風見田は、海を隔てて波照間島をくっきりと見ることができる地です。この南風見田の地で、波照間の子供たちは波照間を海の向こうに見ながら青空教室の授業を受け、そして多くはマラリアにかかり命を落としていきました。碑の脇の岩盤にはひっそりと波照間国民学校の校長であった識名氏によって刻まれた「忘勿石 ハテルマ シキナ」の文字が刻まれています。
住所:沖縄県石垣市竹富町南風見


沖縄本島はもちろんのこと、沖縄はその全部が戦争の傷跡と言っても過言ではないと思います。戦後の歩みの中で、戦争の処理がなされぬまま、かつて戦場であった地やかつて多くの人々が命を落とした地の上に、コンクリートが流しこまれ、町や基地が整備されています。一方、何の保存も受けないまま自然の力の中で朽ち落ちていく戦跡も数知れず。米軍基地の中のものは触ることができませんし、私有地にあり許可なく立ち入りできないものや、戦後70年近くも経つ中で亜熱帯の自然の力の前に人間の存在はあまりにも微力です。今回、ここで紹介した戦跡は沖縄のごく一部のものですが、機会があればぜひ足を運び自分の目でかつて実際にそこで起きた戦争に向き合ってみてください。
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