コンパクト! 江戸っ子ライフ
「九尺二間の裏長屋」の例。自宅出産のシーンを再現している
人口密度の高い町・江戸では、ことに庶民には、広い住居など望むべくもありません。物売りや職人といった職業の人々が住んだのは、表通りを一本裏に入った路地に建つ「裏長屋(裏店)」。台所としても使う小さな土間と、4畳半か6畳一間だけに、家族3~4人で住むことも多かったそうです。水場は共同の井戸、屋外に共同トイレとゴミ捨て場があり、風呂は銭湯。長屋には本当に寝るだけの機能しかなかったのです。
宵越しのゼニは持たない、モノも要らない
長屋にはとにかく、モノがありません。着ている以外の衣類はほんのわずかで、今着ていないものは衣紋掛け(ハンガー)に吊るしておけばいいし、畳めば薄くなり場所をとらない着物は、たくさん持たない限り箪笥も不要。魚や豆腐、野菜ばかりか、惣菜を売る物売りまで表を流しているので、呼び止めて買えば、独身者には調理用具さえ要りません。必要なモノは「損料屋」と呼ばれるレンタルショップで、布団や衣類、時には「ふんどし」まで貸し出してくれました。日銭さえ稼げれば、江戸っ子はモノを持つ必要はなかったのです。
狭くても大丈夫。江戸っ子の遊び場はいっぱい
江戸っ子の娯楽、寄席。「中村座」では時折、本物の落語が上演される
江戸っ子が狭い長屋でものびのびと暮らせたのは、公共空間が充実していたから。おかみさんたちは、共同の井戸の周囲で洗い物をしながら井戸端会議。子供たちは路地を元気よく走り回ります。自動車もバイクもなく安全です。芝居小屋、寄席、相撲見物は盛んで、貧乏人でも安く見物できる席がちゃんとありました。現在のような「公園」はありませんが、寺社への参詣や郊外の名所めぐりには、季節の花や紅葉を愛でる楽しみがありました。江戸っ子は決して、狭い長屋に引きこもることはなかったのです。