宮沢賢治と並ぶ日本を代表する童話作家
新美南吉の作品と人物にふれる
『ごんぎつね』『てぶくろを買いに』などの作品で知られる国民的童話作家・新美南吉。2013年は生誕100年。生誕地の愛知県半田市では新美南吉記念館が展示リニューアルし、見応えがいっそうアップ! 作品に登場するゆかりの地も周辺に点在し、1日をかけて南吉の魅力と生涯にふれる旅を満喫できます。新美南吉は大正~昭和の人物で、29歳の若さで逝去。素朴でほのぼのとした作品世界を描き、あの宮沢賢治と対比されて「北の賢治、南の南吉」とも称されます。
南吉の童話を「子供の頃に読んだ」と懐かしく思い出す人も多いことでしょう。それもそのはず、彼の作品は、昭和55年以降国内のすべての国語の教科書に採用されているのです。小学4年生用に掲載されているため、昭和45年以降の生まれの人は必ず少年少女時代に南吉作品にふれていることになるワケです。
そんな新美南吉のふるさとにある新美南吉記念館は南吉作品の世界に浸れるとともに、その人間像や生涯を分かりやすく伝えてもくれます。
館内に入ると左手にあるのが図書閲覧室。ここでは南吉の全作品を読むことができます。しかも、ここまでは無料。作品に目を通してあらためて南吉への興味がわいてきたら、有料の展示室の充実した資料を見てさらに理解を深めればよいのです。
ココに注目! 新美南吉記念館をより楽しむポイント
さて、ここで記念館をより楽しむためにチェックしたいポイントをいくつかご紹介しましょう。1: こぎつねは何匹?
南吉文学の象徴、きつね。館内にはかわいらしいこぎつねの人形があちこちに隠れています。意外な場所からこっそりのぞいていたりするので、何匹いるか探して歩けば、小さな子供でも見学が楽しくなります。
2: 帽子屋のらんま
『手袋を買いに』の一場面を再現した帽子屋の入口。ここでは扉の上に掲げられたらんまに注目してください。唐草模様に「BOUSI YOUHUKU」と透かし彫りされたこのらんまは、かつて半田市内に実在した「山半」という帽子屋にあったものをモデルに復元されました。南吉ファンの間では、この山半が童話に登場する帽子屋のモデルだといわれており、そんなファンの思い入れに応えてわざわざ作られたしつらいなのです。
3: はりきり網と赤い井戸
展示室に吊り下げられた筒状の網、そして中庭に設置された焼き物の井戸。これらは『ごんぎつね』に登場する道具。物語の中では「はりきり網」「赤い井戸」と書かれているのですが、今ではほとんど見られない、あるいは他の地域にはないモノのため、国語の先生もどんなものか分からず、子供たちに説明する際に困るのだとか。はりきり網は魚を取るための仕掛け網で、職人が昔ながらの材料で復元。赤い井戸は半田市のお隣、常滑の焼き物の特徴である赤い土を使ったもの。かつてこの地域ではごく普通に見られ、南吉の故郷の岩滑で実際に使われていた古井戸を移設したそうです。
4: 3畳の下宿部屋
南吉が東京で過ごした3畳の下宿部屋を再現。窓枠は何と実際の下宿で使われていた本物。2011年に残念ながら取り壊されてしまった際、譲り受けたそうです。さらにスゴイこだわりは机の横に積んであったり、棚に並べらてあったりする蔵書の数々。南吉の日記を元に、本当にこの部屋で読んでいたであろう本を古書店で探し出してそろえたというから恐れ入ります。
5: スマホ感覚で見られる直筆原稿や手紙
デジタル資料閲覧室は、子供たちからマニアまで夢中になれる展示スペース。主要作品を読める他、直筆の原稿やノートなども見られるのです。
通常、生原稿はガラスケースに収められていて、よほどのマニアではないとなかなかじっくり見ようとは思えないもの。しかし、ここではデータ化され、タッチパネルで簡単にページおくりや拡大縮小ができるため、原稿を書いた南吉の息づかいを感じながらじっくり目を通すことができるんです。
何度も何度も書き直した跡がある推敲ノート、巻物にしたためられた長大作のラブレターなど、愛すべき人物像がリアルに浮かび上がってきます。
6: 南吉が国民的人気を得た秘密
実は、南吉は昭和18年に亡くなった当時、ほとんど無名の存在だったそうです。一気に知名度が高まったのは昭和40年。美智子妃殿下と南吉作品とのエピソードが週刊誌の記事となり、これを機に全国に知られるようになりました。美智子様はその後もスピーチで作品を紹介されるなど、南吉文学の素晴らしさを世に広める役割を果たしてくれました。こうした没後の人気の広がり、美智子様とのかかわりを紹介する展示も非常に興味深く鑑賞できます。