演歌・歌謡曲/演歌・歌謡曲入門

エレキ歌謡の演歌化に見る“演歌・歌謡曲の聴き方”

「演歌・歌謡曲のポップな聴き方」としてガイドがおススメする入門編。今回は1960年代に一世風靡したエレキ歌謡から『夜空の星』(加山雄三)、『二人の銀座』(山内賢/和泉雅子)、『京都の恋』(渚ゆう子)の3曲をピックアップ。ザ・ベンチャーズの影響をうけて誕生した“ロックな”エレキ歌謡が、ザ・ベンチャーズ自身の参入により演歌化していくという奇妙な現象をおもしろく解説しています。

中将 タカノリ

執筆者:中将 タカノリ

演歌・歌謡曲ガイド

演歌・歌謡曲のポップな聴き方

これから演歌・歌謡曲を知りたいというみなさん。レンタルショップに行くにしてもYouTubeを検索するにしても、星の数ほどある曲の中からグッとくる好みの一曲に巡り合うのは至難のわざだ。一概に名曲と言っても聴いてすぐ「イイネ! ノリノリ!」となるものもあれば、一聴するだけだと古臭かったり、クセが強すぎてうけつけにくいものもある。巡りあわせが悪いと「このジャンルやっぱ無理」みたいなことにもなりかねない。

僕がおススメするのは「ポップでリズミカルだけど超有名じゃなく、かつ洋楽要素を感じやすいものから聴く」というものだ。この点を踏まえておけば無理なく演歌・歌謡曲になじんでいけるし、現代のJ-POPやロック、HIPHOPなんかとも同列の音楽として認識できるようになる。また、カラオケスナックで歌うとおじいちゃんやおばあちゃんが「あらアンタ! こんな曲知ってんの?」と嬉しがってくれることうけあいだ。

前置きが長くなったが、今回は演歌・歌謡曲の中でも特にファンキーな曲が目白押しな『エレキ歌謡』というジャンルから3曲ご紹介しよう。


『夜空の星』(※『君といつまでも』のB面)加山雄三

 

 

作詞 岩谷時子、作曲 弾 厚作(加山雄三のペンネーム)。今もなお保険のCMなどでおなじみの“若大将”こと加山雄三の曲だ。1960年に俳優デビュー、翌年に歌手デビューし、何をやってもカッコよく大ヒットを飛ばした彼の立ち位置は、今でいうとさしづめ福山雅治といったところか。

そしてこの人こそ、日本のポピュラー音楽史に登場した初の“シンガーソングライター”なのだ。『夜空の星』は『君といつまでも』のB面ではあるが、大ヒットした主演映画『エレキの若大将』の盛り上がりどころを演出したナンバーで、多くの人の印象に残った。というのも、サウンドが当時、若者の間でエレキブームを巻き起こしていた“ベンチャーズ”のモロパクリだったから。

しかし、バックに従えたエレキの帝王・寺内タケシと二人でエレキギターを速弾きしまくる姿は実にかっこよかった。聴いてもらうのが一番早いだろうが、テケテケしたギターとつんのめったリズムのアンサンブルが案外“今ない感じ”のダンスミュージックを演出している。本家ベンチャーズとは別の魅力が加わったこの曲が、実質的にエレキ歌謡の始まりと言える。


『二人の銀座』 山内賢/和泉雅子


 

1966年にヒットしたデュエット曲で、翌年には映画化もされた。加山雄三の人気にあやかろうと、こともあろうか本家のベンチャーズを作曲に迎え、永六輔が歌詞をつけた。エレキ歌謡の中でも特に『ベンチャーズ歌謡(ベンチャーズが作曲したから)』と呼ばれる一連のヒット曲のトップバッター。

山内賢は都会的でさわやかな青年といったイメージで、俳優が本業ではあるが、この曲以前にもヤング・アンド・フレッシュというバンドで活動していた。ギターが弾けるイケメンならではの起用であろう。

和泉雅子は当時の超美少女女優で音楽性と言えるようなものはないが、とにかく声も顔も可愛い。強烈なドラムロールとエレキから一気に歌に入るイントロやサビはなんとも胸に迫る日本的情緒があり、加山雄三よりもう二、三歩、エレキ音楽を歌謡曲に溶け込ませることに成功している。なによりデュエットというのがイイ。ベンチャーズが関わったほうが歌謡曲臭くなるというのがなんとも理解しがたいところだが、さすがにそれは彼ら一流の空気を読む才能なのだろう。


そして最後に紹介するのはこの曲。

『京都の恋』 渚ゆう子


 

エレキ歌謡から“派生”したベンチャーズ歌謡として、もっともヒットした曲。作詞 林春生、作曲 ザ・ベンチャーズで1970年度のオリコンランキング年間10位になっている。今の若い人が前知識なしに聴いたら、単なる演歌としか思わないだろう。それも『津軽海峡冬景色』や『天城越え』なんかとは違って、かなり聴くのがキツいのではないだろうか?

メロディーはなんだかザ・ローリングストーンズの『PAINT IT BLACK』をパクったのかと深読みできなくもないが、単に演歌的な泣きの旋律と思っておいたほうがまだ気楽。なにより渚ゆう子の声が典型的にベッタリした演歌声(民謡、ハワイアンのキャリアからか)なので、もはやリズミカルな要素は感じられず、エレキの伴奏もお飾り程度のものになってしまっている。

とは言え、この当時の演歌・歌謡曲としては秀逸なナンバーだし、上記の2曲からここに至るまでの道のりを把握している読者の方には“初めはロック的だったエレキ歌謡→本家・ベンチャーズの参加により次第に歌謡曲化→最後は演歌に”という流れが見えて非常に興味深く受け取ってもらえると思う。そして冒頭でも言ったように、いきなりこの曲を聴くよりはるかに楽しく、そして魅力の神髄に触れていただくことができるのではないかと思うのだ。


いかがだっただろうか? 今回はエレキ歌謡を例にとってみたが、演歌・歌謡曲にはまだまだ『ディスコ演歌』、『ニューリズム』など不可思議でポップな入口が盛りだくさんだ。ぜひぜひ多くの方にその魅力と聞き方を伝えていきたいと思う。

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