ひた隠しにする「オッサン」コンプレックス
私には、本人としては結構重大なコンプレックスがある。ふだん鉄壁のメークにヒラヒラスカートを穿いて、海外在住マダム(しかし自分でそう名乗ったことは断じて一度もない)と聞こえなくもない痛痒いライフスタイルを送るふりをしてひた隠しにしているが、実のところ紛うかたなくオッサンだということだ。身長も肩幅も足も態度もデカい。「コワい」と言われ慣れた人生。なんかいろいろ可愛げがなく、特定の層(女性に特定の行動様式を求める層)の神経に障るようだ。日本人の女というのは海外では日本人で女だというだけで超絶モテると聞いたが、何だろう、一向にモテている気がしない。英国にいるから頑張ろうと思って、女性ならみんな好きになる(べきだ)と言われる素敵アフタヌーンティーとかアンティークとかに努力はしたけど微塵も興味がわかない。飲み物は、アルコールが入っていないのなら、飲む意味がないからいっそ水がいいと思う。哀しみも歓びも、オカマの話に心から共感する。
特別な何かをするわけじゃない。化粧なんかさっさと落としてジャージに着替え、ビールにラーメンで本を読んだりお笑いを観たりしているのがモーレツに幸せな、肝臓と痛風を警戒する小市民なのだが、それは世間の誰かが期待する「女らしさ」を満たさず、すなわちオッサンらしい。
これまで約40年間の人生、毛の生えていない幼生期は勿論、日々息をするように失言と自己嫌悪を繰り返す思春期も、番う相手を物色するのが生物学的使命(らしい)の青年期も、仕事上でも「ママ友」界でも、それはそれは自分のオッサン性をひた隠しにしてきた。それが、最近どんどん隠し通せなくなってきて危機感を抱く。
加齢するにつれておばさんにならずにオッサンになっていくのがアリアリで、仕方なく最近はジーンズをやめ、スカートを穿いて「女装」に拍車がかかり、軽いコスプレ状態になった。若いときよりもまめにあれこれケアしないとすぐ見苦しくなるので、例えば口ヒゲはこまめにチェック。本人は至って楽しいのに「あれ、機嫌悪い?」とやたら聞かれるのは「コワい」ゆえで、顔映りの良い明るいヒラヒラした服を着なきゃいけないんだなと反省するが、日本ではサイズがない。しかし、そんな本人の悲痛なまでのひた隠しぶりにも関わらず、これまでも周囲はみな一目で私がオッサンだとわかっていたようなのが、なお切ない。なぜだ。思い当たるフシがある。私が女子校出身者だからだ。