不器用に愚直に全身全力でぶつかるファイトスタイルに感動
1980年代の日本プロレス界といえば、やはり「鶴藤長天(ジャンボ鶴田、藤波辰巳、長州力、天龍源一郎)」や佐山聡(初代タイガーマスク)が真っ先に思い出されるのではないでしょうか。テレビ放送がゴールデンタイム枠で放送され人気の絶頂期でしたし、アメリカ生まれのエンタテイメント的・ショー的なスポーツ文化が本来まるきり異なっている日本的な武道の精神性・文化に取り込まれ、ある種の幸福な成熟を遂げた時代のようにも感じられます。
そして1980年代はプロレスのショー的要素と後の総合格闘技への流れが混在していた過渡期でもありました。
この時代に活躍した外国人レスラーには、ヒール的にショーとして観客を楽しませてくれたアンドレ・ザ・ジャイアント、アブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガー・ジェット・シンなどの強烈なキャラクターがすぐに思い出されますが、中でも異彩を放ったレスラーが、スタン・ハンセンです。
彼のスタイルは猪突猛進、作ったキャラ的な要素はなく、テキサスからやってきたあらくれカウボーイが(当時のアクの強いキャラに囲まれた中、ちょっとあっさりしすぎる印象でしたが)不器用に愚直に全身全力でぶつかるというものでした。
そして試合の山場で、伝家の宝刀、必殺のウエスタン・ラリアット(左腕を相手の喉元に叩き付ける技)一撃で相手をマットに沈める姿にはカッコよさ、潔さが感じられ、日本人びいきに観ているファンにとっては、怖れられる存在であり、同時に敵ながらあっぱれと思わせるものがありました。まだ子供だった私にも、彼のすごさははっきりと伝わってくるほどでした。
試合中は泥臭いまでに体を張って戦う姿にファンが徐々に増えていきました。ファンはそこに日本的な武道的精神に通じるすがすがしいものを感じ取ったのだと思います。
そしてハンセンは2001年の引退まで長きにわたり日本のプロレス界で活躍しました。最も愛された外国人レスラーの一人と言ってよいのではないでしょうか。