全国ツアー公演では、名作『黒い瞳』のニコライを。同期の未涼亜希さん演じるプガチョフとのソリの場面は、決して自分を譲らない信頼し合った二人の、至高のナンバーとなりました。
レオナルド・ディカプリオ主演でも話題となった『仮面の男』では、若き暴君ルイ14世と、その兄フィリップの2役を、『ドン・カルロス』では、国民から慕われる王子・ドン・カルロスを好演。貴族としての気品があふれ、コスチューム・プレイも似合います。
また『ハウ・トゥー・サクシード』のフィンチや『フットルース』の高校生・レンなど、明るい青年役ははまり役でした。
溌剌として爽やか。だけど、発するものは骨太で力強い。
そして、日本物の似合う男役、できる男役でもありました。
中でもバウホール公演単独初主演となった『やらずの雨』の徳兵衛。堅物な若旦那、遊び人、振り売り、売れっ子船頭など、次々と変わってゆく様を見事に演じました。ふっと抜く上手さも抜群。青天(あおてん)も着流しも、縁側に座り三味線をつま弾く姿もすべて粋。
またトップになってからの『Samourai』の前田正名。プロローグでは子獅子二人を従えた歌舞伎ばりの連獅子を踊り、日舞の上手さも披露。台詞の一つ一つに説得力があり、勇敢で壮大で懐の大きな薩摩藩士でした。
そして最後も日本物。麻樹ゆめみさん、未涼亜希さん、専科から特別出演の北翔海莉さんの同期生3名に見守られてのサヨナラ公演、『JIN-仁-』の南方 仁。
皆に慕われ信頼され尊敬されたカッコいい仁先生は、“音月 桂”そのものでした。
音月 桂さんには、舞台の空気を動かす力があります。それはまだ若手と呼ばれる頃からでした。
彼女が何かを発すると、舞台がキュッと締まる。観ている者の心を、すっと動かす。そして酔わす。
また、役になりきるという自分側の処理だけではなく、その上で、観客にどれだけの感情を与えられるかということが、しっかりと出来た舞台人でした。
「一瞬たりとも見逃してはならない」……そう思わせる押し出す力と引き付ける力。音月桂さんのそこに、私たちは惹きつけられたのです。
強い光彩を放つ、逸品のトップスターでした。