気難しい性格のメス馬が、恋をしたことで急変化
よく「恋をすると人は変わる」なんていいますよね。好きな人の前でいいところを見せようと急に仕事のモチベーションが上がったり、自由奔放だった人が優しさを身につけたり。そんなことは人間だけの話かと思いきや、実は競馬でも「恋によって性格の変わった馬」がいたんです。物語の主役となるのは、2003年にデビューしたダンスインザムードという牝馬(メス)。ダンスインザムードは、兄も姉もビッグレースを勝ったいわゆる「名家のお嬢様」で、デビュー前から大きな期待を集めていました。そしてその期待にたがわず、デビューから4連勝で同世代牝馬の最強を決める桜花賞(芝1600m、阪神競馬場)を制覇。偉大な兄や姉をあっさりと超えていきそうな末恐ろしい実力を見せつけました。
しかし、彼女には大きな問題がありました。それはとにかく「気難しい」こと。真面目に本気で走れば相変わらず強いのに、一方でちょっとでもやる気をそがれるとあっさり負けてしまう。「お嬢様らしい」といえば聞こえはいいですが、スタッフやジョッキーには大きな悩み。デビューから2年経った2005年にはこの気難しさがさらに悪化し、年明けからの成績は9着、18着、8着、12着、8着。能力をまったく発揮しなくなってしまいました。
そのダンスインザムードが、2005年終盤から2006年にかけて突如真面目に。どのレースでも全力。となれば能力は一級品ですから、牝馬相手なら負けませんし、強い牡馬(オス)相手のビッグレースでも2着と、対等に渡り合います。
では一体なぜ、ダンスインザムードは真面目になったのか。この時期の成績を見てみると、不思議なことが分かったんですね。というのも、復活してからのレースの多くで、ゴールするダンスインザムードの少し前にダイワメジャーという馬がいたのです。
ダイワメジャーはこれまたビッグレースをいくつも制した名馬なのですが、いつもそのダイワメジャーのすぐ後ろを付き添うようにダンスインザムードがゴールするのです。その証拠に、2頭のワンツーフィニッシュで決まったレースが2006年に3回もあり、それ以外でも、ダイワメジャーが4着ならダンスインザムードは5着、ダイワメジャーが2着なら、間に1頭挟んだものの、ダンスインザムードはわずか後ろで4着。この現象を見て、「ダンスインザムードはダイワメジャーに恋したのではないか。それで真面目になったのでは?」とファンは疑い始めたのです。
注目すべきは、ダンスインザムードがいつもダイワメジャーの「少し後ろにいた」こと。気の荒かった若い頃とは別の馬のように、ダイワメジャーの後ろにそっと寄り添う健気な姿を見せていました。
ただ、真面目になったダンスインザムードが、ダイワメジャーのいない香港で行った引退レースでは、久々に気難しさを発揮。12着に大敗してしまいました。もちろん馬の本心は分かりませんが、この時ダンスインザムードに騎乗していた武豊騎手は敗因を聞かれると、「ダイワメジャーを探していたのかな」と、粋なコメントを残してくれました。そんなこともあり、ダンスインザムードの恋はいまだに競馬ファンの語り草となっています。もちろん、多分に想像の含まれた話ですが、とはいえ、それにしては出来すぎなくらい2頭の着順が近い。ですから、私は信じることにしています。
馬が行うからこそ生まれる不思議なドラマ。それを紐解いていくと、意外と人に似ている部分があることに気付くもの。レースでの勝ち負けを予想するだけでなく、馬それぞれが持つキャラクターや歩んできた道のりに注目すると、より競馬が面白くなるはずです。
(リンク)
The G-Files 009 「JRA G2最多勝馬 一所懸命の美学 バランスオブゲーム」
ダイタクヤマト –JRA-VAN-
「名馬の蹄跡 ダンスインザムード」–JRAホームページ