石川尚のスケッチコラム「椅子のある風景」#18
『大ホールに鎮座するワインレッドの椅子風景』
どこにいても、「何気なくある椅子」が気になる。そして、その場所、空間の一部になりきっている風景がそこにある。
この季節になりますと、巷で良く耳にするベートヴェン、交響曲No.9「第九」。特に最後の第四楽章の合唱は喜びを賛美する素晴らしいクラシックの名曲です。
コンサートホールでの生演奏もあちらこちらで開演されている。
さて、縁あってこの「第九」合唱に挑戦することになった筆者・・・秋から週に一度、夕方18:30から20:30まで赤坂・サントリーホールの合唱練習に通ってきました。
普段聴衆として席に着くことはあっても、間違っても立つことはない舞台に今回、それもサントリーホールの舞台にたつことになった。
サントリーホールは、言わずと知れたクラシックの殿堂的ホール。1986年竣工、ホールの設計には、オーストリアの指揮者、20世紀後半の巨匠(マエストロ)故ヘルベルト・フォン・カラヤンが関わった。
昨年20年ぶりに初めてのリニューアル(改修工事)を行い、以前より明るくなった室内空間、そしてバリアフリー対応が施されたホールはとても心地よい空間だ。
壇上中央にある象徴的なパイプオルガンは、オーストリアの名門、リーガー社の手によるもので世界最大級。今回の「サントリーホールの第九」のプロローグに久石譲氏が委嘱したスケール感のある曲「Orbis:オルビス」、イントロではこのパイプオルガンの荘厳な音がホールに響く。
練習を重ねるほどに、とにかく音の響きがこんなにも美しいものなのかと再認識の連続。
合唱やオーケストラの音の響きがスっと大空間に消えてゆく瞬間には思わず鳥肌がたつ。
聞くところによると、音の響きは残響時間に関係し、サントリーホール満席時、残響時間は中音域で2秒あまりといわれる。巨匠:カラヤンは、その音響の美しさに「まるで音の宝石箱だ」と言い放った。
今回の改修工事でもその響きの美しさを維持し、継承することに最大限の重きが置かれたとのこと。